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指先を染めるルージュを見つめる。
「長瀬……? どうした?」
落ちなかった、カリスのルージュ。
それがふつうの口紅のように……
「もしかしてどっか体調悪かったのか?」
彼が心配そうな顔をしている。
「……」
「長瀬?!」
なにが悲しかったのかわからなかった。
ただ、むしょうに涙があふれてきて、わたしは
カリスのいる谷へと逃げるように駆け下りた。
「カリス!」
わたしは彼女の名を呼んだ。
「カリス、ねえ……!」
「長瀬、ごめん謝る、待ってくれ!」
わたしとほぼ同時に、如月くんもそこへと走り出た。
紅の色に染まった花々がいちめんに、夜風に揺れていた。
カリスの歌声が聞こえた。
嬉しそうに、誇らしげにだれかを祝福するような、そんなふうなーーー
その歌声がいつまでも夜風にこだましてーーー
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