女神のルージュ

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「はあ……」 わたしー沙也加はため息をついた。 「ブランドの化粧品、バイト代つぎ込んで奮発したのに……」 鏡を見て、すべすべのお肌とは程遠い自分の顔を見る。 学校の、わざわざ裏庭でコンパクトミラーを開いているのには、そこはー乙女心というやつ。 サワサワと、春の風が木々の緑を揺らして、日差しは穏やかで、綺麗で。 そのとき、声がした。 「ねえ、如月(きさらぎ)、まじ好きな子いないのー? ウチのクラス、けっこうイケてる女子多いじゃん?」 「そんなのいねーし」 如月(きさらぎ)くん。 そのちょっとぶっきらぼうな、でも温かみのある声。 渡り廊下を通り過ぎて―わたしなんかには、気づかずに。 わたしが、美人だったら…… 「うっ……」 目じりが熱い。 「かみさま……」 神様なんて信じてなかったのに、なんでつぶやいたか、分からない。 「神様、お願いっ……わたしを美人にしてくださいっ……」 そのとき。 コンパクトミラーが急に光を放って、はじけ飛んだ。 「わっ……?!」 光は人の形をとって―― 深紅の髪の、真珠のような肌の蒼い目の、信じられないくらい綺麗な女の人になった。 その人は不敵にほほ笑み、 「なんて顔をしている?」 腰を抜かしているわたしに近づいて、 「きみがわたしをよんだんだろう?」 そう言って、自分の紅い唇を指先でなぞり、わたしの唇に紅をぬった。 「えっえええええええええ?!?!?!」
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