女神のルージュ

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白い肌の女神は、ダストボックスに入っていたカラの容器を手に取って、 「まったく……こんなものをつけたところで、いいことなんてないのに」 茫然としているわたしにの目の前で、その化粧品容器も手の中で消してしまった。 「ひ、ひどい……」 「なにが?」 涼やかな声で女神はおかしそうに、窓辺に座ったまま足を組み替えた。 「だって……あなたは……わたしの望みをかなえてくれるって……」 「そうだよ。きみを綺麗にしてあげる。でも」 女神の瞳がきらりと光った。でも、その意味は、まだわからなかった。 女神と同じ色に染まった、わたしの唇を人差し指で押さえ、 「まずは花芽、そして蕾をつけてくれないと―紅く染める花の」 かっとなって、わたしはベッドにもぐりこんで泣き出した。 布団を頭からかぶって、ぼろぼろ涙がこぼれてきて。 お化粧すらできないみっともないわたしを、好きになってくれる人なんて、 いないのに。 ただ、紅い髪の女神がわたしの唇に塗ったルージュは、不思議と少しも、 涙が伝っても落ちなくて。 歌声が聞こえてきた。まるで子守唄のような、それでいて恋の唄のような。 くやしくてかなしくてたまらないのに、その優しい声を聞いているうちに、わたしは眠ってしまった。
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