女神のルージュ

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「じゃ、また明日ねー、沙也加!」 「うん、美香、また明日」 夕焼けの長い影を見ながら、わたしはぼんやり考えていた。 なんで、あの女神さまは、わたしなんかのところに来てくれたんだろう。 べつに魔法を使って絶世の美人に変身させてくれたとかじゃない。 でも。 自分の唇に触れてみる。 不思議とこのルージュは落ちない。 このルージュは、なんなんだろう? 「長瀬? 帰り?」 「!」 振り返ると、如月(きさらぎ)くんが笑顔を向けて、 「なんだよ、俺の顔になんかついてる?」 「う、ううん、そうじゃなくて……」 言葉が出てこなくて。 「ま、いいや。今日の長瀬、なんか感じよかったな」 「えっ?」 「なんか、いつもの、なにかに追っかけられてる感が抜けたっていうか」 思いがけない言葉に、わたしは驚いた。 わたしがなにかに追っかけられてた?  どういう意味だろう? わかんない、けど。 「あの……」 「ん?」 「ありがと……」 「え? いや、なにかっこつけてんだ俺」 如月(きさらぎ)くんはちょっとおどけて、手を振って、行ってしまった。 ふと、あの歌声が聞こえた。 あのひとが歌う声。 夕暮れの迫るなか、わたしは探した。 森林公園のなかをつっきり、谷のほうへ足早に歩いた。 「……?」 ほとんど人のこない谷底で、白い花々が光っていた。 そのなかで、あのひとが歌っている。 「あのっ……めがみ、さま……」 紅い髪が夕暮れに照らされて、彼女は振り向いた。 「カリス、だよ、沙也加」 「カリス……」 そう呼ぶと彼女は嬉しそうにほほ笑んで、 「綺麗だろう? ついさっき蕾をつけて、「白い花」は咲いた」
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