1人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしは彼を、あの花咲き乱れる谷底へと誘った。
わたしは一歩一歩降りていく。彼は難なく降りていく。
彼にも見てもらいたかったのかもしれない。
カリスがわたし自身であるといってくれた、色づいていくあの花々を。
でもその前に、彼は振り返った。
「 もういいだろ?」
「もう少し先・・・・・」
言いかけて、キス。
「・・・・・!」
不器用で、欲の強い感触。
一瞬のことのような、すごく長いような。そして如月くんは私から顔を離した。
彼は無邪気に笑った。
「悪い。口紅、取れちまったな」
「え・・・?」
触れてみて、ルージュがまだらに取れているのがわかった。
「あーっこーいうときってなんて言ったらいいんだか・・・・・わっかんねえけど・・・・長瀬?」
「・・・・・」
「ま、もう帰ろうぜ。俺紳士だし、それに」
彼は優しく、心底うれしそうに言った。
「なんかいまのお前、悪くないっていうか・・・・うん、口紅がちょっといいかんじ?」
最初のコメントを投稿しよう!