女神のルージュ

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わたしは彼を、あの花咲き乱れる谷底へと誘った。 わたしは一歩一歩降りていく。彼は難なく降りていく。 彼にも見てもらいたかったのかもしれない。 カリスがわたし自身であるといってくれた、色づいていくあの花々を。 でもその前に、彼は振り返った。 「 もういいだろ?」 「もう少し先・・・・・」 言いかけて、キス。 「・・・・・!」 不器用で、欲の強い感触。 一瞬のことのような、すごく長いような。そして如月(きさらぎ)くんは私から顔を離した。 彼は無邪気に笑った。 「悪い。口紅、取れちまったな」 「え・・・?」 触れてみて、ルージュがまだらに取れているのがわかった。 「あーっこーいうときってなんて言ったらいいんだか・・・・・わっかんねえけど・・・・長瀬?」 「・・・・・」 「ま、もう帰ろうぜ。俺紳士だし、それに」 彼は優しく、心底うれしそうに言った。 「なんかいまのお前、悪くないっていうか・・・・うん、口紅がちょっといいかんじ?」
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