憧憬と贔屓

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憧憬と贔屓

わたしが学校に通う目的、理由。 「…今日は昨日の続きで68ページから。まずは読みます」 それはいつしか、いま教壇に立っている彼の声を聴くためになっていた。 この声に出会って、ずっと苦手だった古典の授業が楽しみになった。 正直、眠くなることがまったくないとは言い切れないけれど…… それでも、声のために、取り組む姿勢は変わったと思う。 幸が薄そうな西川裕隆(ゆたか)先生は、先日30歳を迎えた。らしい。先日の授業でそう話していた。 メガネをかけていて、ひょろっと背が高く細身で、つねに眠たそう。やる気もない感じで、授業中明らかに寝ている生徒がいても注意すらしない。って陰で言われてるくらい。はっきり言って生徒に見下されてる。 わたしにとっては、別の意味でいい授業。 受ける授業の全部が、先生の声だったらいいのに。 先生の声に、癒されたい。 わたしの耳元で、ずっと喋っていてほしい。 そんな欲望が、わたしの中で渦巻いていた。
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