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「あー! お兄さんっ!」
広場を眺めていた視線がその声に引き戻される。少し高めの弾けるような声音。
「ども〜」
声の主に向かって会釈したのは、なぜか目の前の圭吾さんで。視線を辿り──気分が一気に沈んでいく。
駅前で圭吾さんに話しかけていた女性だった。ロングヘアの目元がくっきりと印象的な人。
「わあー! 来てくれたんですねー!」
カフェスタッフなのだろうか、エプロン姿のまま駆け寄ってきた彼女は圭吾さんに手を振った後、なぜか俺を見て目を見開いた。
目が合ってしまったため、軽く会釈すると、彼女は「嘘でしょ」と呟いて手を伸ばし────どういうわけか、俺の頬を両手で包みこんだ。
「え……?」
「こらこら」
「嘘でしょっ! こんっな可愛い男の子がいるなんて反則ですよぉ!! 睫毛長っ、目も大きい!! お人形じゃないですかっ!!」
他の客がいる手前、声は潜められているものの、興奮気味に俺の頬を撫でながら話す彼女の声に、視線がちらちらと周囲から注がれて冷や汗が噴き出す。
「ちょ、あのっ、ちかっ」
おまけに顔が近いせいで、のけぞる俺は椅子からずり落ちそうだし。
「はーい、ストップ〜」
俺の頬を撫でていた手が、横から伸びてきた手にパシリと掴まれる。
「お触り禁止」
「あ、ごめんなさい〜」
「次やったら怒るからね」
「わわ、ほんと、ごめんなさいっ、興奮しちゃって」
「うん、その気持ちは嬉しいけど、僕のだから触らないで」
ずるん、と。
半端な体勢だったのもあって、俺の身体は見事に椅子からずり落ちた。いや、正直に言うと……腰が抜けた。
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