嘘は、嫉妬に溶かして

4/7
前へ
/40ページ
次へ
「あー! お兄さんっ!」 広場を眺めていた視線がその声に引き戻される。少し高めの弾けるような声音。 「ども〜」 声の主に向かって会釈したのは、なぜか目の前の圭吾さんで。視線を辿り──気分が一気に沈んでいく。 駅前で圭吾さんに話しかけていた女性だった。ロングヘアの目元がくっきりと印象的な人。 「わあー! 来てくれたんですねー!」 カフェスタッフなのだろうか、エプロン姿のまま駆け寄ってきた彼女は圭吾さんに手を振った後、なぜか俺を見て目を見開いた。 目が合ってしまったため、軽く会釈すると、彼女は「嘘でしょ」と呟いて手を伸ばし────どういうわけか、俺の頬を両手で包みこんだ。 「え……?」 「こらこら」 「嘘でしょっ! こんっな可愛い男の子がいるなんて反則ですよぉ!! 睫毛長っ、目も大きい!! お人形じゃないですかっ!!」 他の客がいる手前、声は潜められているものの、興奮気味に俺の頬を撫でながら話す彼女の声に、視線がちらちらと周囲から注がれて冷や汗が噴き出す。 「ちょ、あのっ、ちかっ」 おまけに顔が近いせいで、のけぞる俺は椅子からずり落ちそうだし。 「はーい、ストップ〜」 俺の頬を撫でていた手が、横から伸びてきた手にパシリと掴まれる。 「お触り禁止」 「あ、ごめんなさい〜」 「次やったら怒るからね」 「わわ、ほんと、ごめんなさいっ、興奮しちゃって」 「うん、その気持ちは嬉しいけど、僕のだから触らないで」 ずるん、と。 半端な体勢だったのもあって、俺の身体は見事に椅子からずり落ちた。いや、正直に言うと……腰が抜けた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加