嘘は、嫉妬に溶かして

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「大丈夫?」 「大丈夫ですかっ?」 大丈夫じゃない。 全然、大丈夫じゃない。 顔、熱い。なんであなたは、そういうことを涼しい顔して言っちゃうんですか。 「椅子から落ちるって、コントじゃあるまいし」 ひひっと意地悪く笑う圭吾さんの顔は、いつだって余裕で、それでいてどこか子どもっぽくて、掴みどころがない。 だから、どうすればあなたが俺に夢中になってくれるのか、そればかり考えているのに。 ──僕のだから触らないで そんなこと言われたら、自惚れそうになる。 俺以外に興味が無いのではないだろうかと、舞い上がってしまいそうになる……だから。 「お姉さんの手、借りていいですか?」 心配そうに覗き込む目の前の彼女に、わざと手を差し出す。こんな幼稚な駆け引きしか、今の俺は持ち合わせてない。 「ちょっと、瑞樹!?」 「あ、もちろん!」 「ありがとうございます」 握られた手の平よりも、横から注がれる嫉妬を含んだ視線に心臓が高鳴る。 「瑞樹くんは今、高校生?」 「あ、はい。高3です」 「じゃあ、もうすぐ受験だ。うちの大学、学部も豊富だからよければ他のブースも見ていってね」 「はい、ゆっくり見させていただきます」 「あと……」 言い淀んで、彼女が不意に俺の手をクイッと引っ張る。顔が近づき、長い栗色の髪が頬を擽る。 「瑞樹くん、ほんと可愛い。二人すっごくお似合いだよ」 耳許で囁かれた言葉は、俺の不埒な企みを簡単に吹き飛ばした。
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