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「は、えっ?」
動揺と、恥ずかしさと、嬉しさと。
ごちゃ混ぜになった感情を、更に煽るように彼女がウインクする。
耳まで熱くて、隠れるように俯く俺の真横から、不機嫌そうな低い声が飛んできた。
「ちょっと、」
俺の肩が、声と同時に引き寄せられて。
「わっ」
ポスンと。
背の高い圭吾さんの胸元に、すっぽりと抱き竦められ、身動きの取れない自分の心臓が、バクバクと忙しなく騒ぎ立てる。
「けっ、けっ、」
圭吾さん! 公衆の面前!
と、叫んだつもり。が、パニックで全く声が出ない。
「コーヒーご馳走さま。はい、これチケットね。あと、冗談でも今みたいなのは止めてね」
「はい〜。すみませんでした」
彼女に向けられた声音に、背筋がぞくりと震えた。
いつもの口調なのに、抑揚の無い声。
怒っているのかもしれない。
「あの、圭吾さん……」
窺うように見上げた圭吾さんは、ただ真っ直ぐ前を向いたまま歩き出す。俺と視線を合わせてくれない。それだけで、罪悪感で胸が潰れそうだった。
催し物が開催される棟の入り口まで来たところで、ため息と一緒に圭吾さんが呟いた。
「あぁ〜、カッコわる」
すっと音もなく肩から離された手を、慌てて握り締める。
「ごめんなさいっ」
「ん? なんで瑞樹が謝るの?」
「さっき……わざとあの人の手を握ったから。だから、怒ってるんですよね……」
ふう、と小さく息を吐き出した圭吾さんの顔を見れない。
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