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すぐ赤くなるその横顔を見つめながら、瑞樹に近づく度に僕が触れて汚してしまってもいいのか、未だに迷ってしまう。
僕が知っている瑞樹の顔なんて、所詮ほんの一部に過ぎないのだろう。
これまでお店で見てきた、客としての3年間と、たった30日間の恋人としての顔。
きっと知らないことはまだ沢山あって、それが瑞樹の保険代わりになる。
付き合って、まだひと月。
高校生の恋なんて、その殆どが勘違いなのだから。
「やっぱり好きじゃなかった」なんて、よくある話だ。おまけに男同士だし。
本当に僕なんかでいいの?
きみが望めば、いつでも元に戻れるよ?
そう心の中では問いかけるくせに、口にしないのは僕の狡さだ。
「あの……」
気恥ずかしそうに逸らされていた視線が、いつの間にかこちらを見据えていて。
真っ直ぐ、透き通るようなその瞳は、無遠慮に僕の心臓を鷲掴むのだから、たまったもんじゃない。
「ん? あ……もう直ぐ着くよ。あのグレーのマンション。あんまり遅くなるとあれだし、一時間くらいしかゆっくりして貰えないけど」
腕時計を確認しながら、僅かな高揚感を飲み下す。
「なんか、緊張する……」
不意に瑞樹がこぼした言葉に、握り締めた手に力が入る。その表情は、いつもなら照れたり、恥ずかしそうに赤らむはずなのに。
目の前の可愛い顔が、暗く沈んでいくのが目に見えて分かる。
「瑞樹……どうか、した……?」
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