ある、晴れた放課後

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直也の家は、俺の実家が営むフラワーショップのすぐ裏手にある。三兄弟の一番下で育った俺と、下に二人の妹を持つ直也とは、考え方に多少はズレがあるものの、不思議と喧嘩もなく上手く噛み合う。 同じ様な環境で、違う立ち位置のせいなのかもしれない。お互い譲りあったり、助け合ったりが、言葉にしなくても自然と出来てしまう。 だからこうして直也が俺の世話を焼いてくれたり心配してくれるのは、長男の性なのかもしれない。 だとしたら、末っ子だといつだか話してくれた圭吾さんの心配性は、俺限定なのだろうか。そうだと嬉しいけど。 「あれ、そういや瑞樹、髪切った?」 俺の頭を撫でていた直也の手が、えりあしに軽く触れる。 「うん、昨日切ったとこ」 言いながら直也を見ると、不思議そうに直也の視線が俺の口許に向けられていた。 まだ余韻の残る唇を惜しむように、無意識に指先で触っていたらしく、慌ててその手をポケットに隠す。 「ふーん。あんなすごい雨だったのに?」 「い、いいんだよ。雨の日が好きなんだ」 正確には、雨の日に会う、彼が好きなのだけど。 「昔からそうだっけ? 雨好きとか変なやつ〜」 「別に……晴れの日も嫌いじゃないけど」 直也とは保育園の頃からの付き合いで、お互い知らないことなんて何一つ無かったから。 今は、この胸の中でひた隠す大きな一つが、ほんの少しだけ罪悪感をもたらしている。 「んじゃ、後でおばさん説得に行くから、伝えといて。俺役員会あるし、夕方寄るわ〜。ついでに飯食ってってもいい?」 「い、いいけどっ、でもっ」 「映画は日曜日で」 「え?」 だけど、いつか。 「土曜日は大切な(・・・)用事なんだろ?」 「う、ん……」 「なら、その日もゆ〜っくり出来るように、上手く説得しなきゃだなぁー」 「は? な、直也?」 いつか。 直也に胸張って言えるように。 良かったな、って思って貰えるように。 圭吾さんとの日々を、大切に育てていきたい。 「俺に隠してもバレバレだってーの」 「ふはっ、さすが長男……」 「敬いたまえ、末っ子よ」 「ははぁー」 だってこの恋は、まだ始まったばかりだから。
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