5人が本棚に入れています
本棚に追加
小学五年生
*
あれから二年。
小学六年生への進学を控えた冬。
褒められたり叱られたりを続けて、その日もなんとか私はステージに立っていた。
演奏後、焦ってしまった私はお辞儀を忘れて、そそくさとドレスの裾を掴んで退場してしまった。
北会館のピアノコンクール会場内にため息が漏れていた。
「みおちゃん、テンポが練習より走りすぎだったわ。だから手が追いつかなくて途中で演奏が止まっちゃったのよ。出だしは良かったのに、残念ね……。課題曲が悪かったのかしら。」
いつもレッスンをしてくれてる先生はそう言い残し、他の教え子の元へと去って行った。
脱いだドレスからコートに着替え、帰りの車の中で「ごめんなさい」をママに繰り返すしかできなかった。
ママは運転しながら後部座席の私に言った。
「……ピアノ、そろそろやめよっか。お金がもったいないわ。」
始まりがあれば終わりがある。諦めなければならないときもあると私は薄々気づいていた。
最初のコメントを投稿しよう!