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教室に登校すると、内浜のほうから話しかけてきてくれた。
「おはようみお、昨日は散々だったな。」
それに私はかなりびっくりした。
「……内浜、まさかまたクラブ帰りにコンクール観に来てたの?」
「今年の頭はすごかったな。爆発してたぞ。」
「あーれは、美容院で朝可愛くセットしてもらったの。断じて爆発じゃ・な・い!」
台本の台詞を読み上げるように、慣れたやり取りはすんなり出来るものである。普通に仲良くなった私たちはこんな感じで冗談を言い合うようになった。
内浜は一年前に野球クラブに入った。
練習の帰り道に北会館があることから、そこで町内ピアノコンクールがあることを偶然知って、去年の夏わざと覗きに来たのだ。
そして案の定
「みおったらアイツ、カマキリみたいなヒラヒラしたドレス、昨日着てたんだぜ!」
と教室でからわれて、小っ恥ずかしくもわざわざ来てくれてとても嬉しい思いをしたことを昨日のことのように覚えている。
コンクールの翌日の内浜のイジりはもはや恒例行儀で、去年の冬、今年の夏、と何度も繰り返してきた。
─── でも、一体いつまで?
「なにー、みおが爆発ー?」
話を盗み聞きしていた、けらけら笑う男子が群がってきた。
私は友達のほうへ向かい、内浜とはそこで暗黙の了解の、解散をした。
「え、みお、いいの?せっかく内浜と話せてたのに……」
友達が小声で耳打ちする。
「おまえら本当に仲良いよなー。」内浜につっかかる何も知らないけらけら笑う男子達の声が、教室の対角線の先から聞こえる。
それが、本当は寂しかった。
あんなにも幸せな気持ちに浸れた、周囲の反応だったはずなのに。
どうしてこうなったのだろう。
私と内浜の関係は、平行線になったまま、もう交わることはない。
こうしてお互いが友達を演じているけど、
本当は今年の夏に全部終わってしまったのだ。
私はそれをまだ誰にも言っていなかった。
……言っていいのか分からなかった。
担任の先生が教壇に立ち、朝の会が始まる。
生徒達は自分の席へとそそくさと戻っていく。
私も腰を下ろすと、
三席前に座る人の、その横に今日も内浜の背中が見えた。
三席も離れている。
いや、三席しか離れていない?
彼は今、何を考えているのだろうか。
先生が授業を始める合図をすると間もなく、
一時間目の教科書とノートを引き出しから取り出す、私と彼の仕草がシンクロした。
私はペンケースからシャーペンを取り出し、数回ノックすると
彼は鉛筆を退屈そうに転がしていた。
小学生の二年間はあまりにも大きい。
背が伸びる一方で、少しずつ少しずつ、誰もが変化していた。
───恋心を育て続けて、ピアノをただ続けていた、
同じで有り続けた私はいつの間にか彼から取り残されていった。
それが寂しかった。
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