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――「グリーン」
僕は手にしたカップを覗き込んで、瞬きをした。
「なぁに?」
「寒くはないか」
「うん、大丈夫だよ」
カップの底に沈んだ粉は僕の息で紅茶の中を舞った。男は帽子を深くかぶっていて顔が見えなかった。男が何か言いたそうに……けれど絶対に言わない。
「イエローは僕の家族だから、一緒に帰ることにしたんだ」
僕は足元の箱に詰められた、愛猫の生きていた頃の姿を思い浮かべる。涙がこぼれる前に僕はカップを持って紅茶を飲み干した。粉にむせそうになりながら飲み込む。
崩れ落ちた僕の体を男が支えてくれたおかげで、衝撃はさほどなかった。
男の名前はブラック。誰よりも冷酷で誰よりも優しい人。幸せなどどこにもないと彼は言った。
薄れゆく意識の中、ブラックさんの手に力がこもる。帽子の下の顔を見るのはこれで二度目だった。僕を拾ってくれた時、そして今。僕にお父さんがいたなら、きっと彼のように温かかったに違いない。
「悲しそうな顔しないでよ。僕ったら今とっても幸せなんだ」
温かいブラックさんの腕に抱かれながら僕はお家に帰る幸せな夢を見たような気がした。
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