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『ちゃんと謝ろうと思いながら、実験のせいで2週間が過ぎてしまいました。  時間が経ちすぎてしまって、口頭で伝えるのはなんだか間抜けなので、メールを送ることにしました。このほうが誤解も少ないと思いますしね。  つーちゃんは似非フェミニストでもマウンティング野郎でもありません。  これが謝りたかったことです。ごめんなさい。  なぜ、あんなことを言ってしまったのか、あの時の心理を分析します。  初恋に悶々とする女子高校生みたいだと笑われる覚悟です。でも我慢して読んでください。  あの時は、それからの2週間の実験で自分がくたくたでぼろぼろになることがわかっていました。これまでにも何度かそういう経験をしてきたからです。全部どうにか乗り切ってきました。ただそれは私生活をすべて犠牲にしたうえでのことです。掃除も洗濯もしない。家へ帰ればどたっと寝るだけ。シャワーも浴びずに一日中着ていた服のまま翌朝まで眠ったこともあります。  そんな姿を見たら、つーちゃんはどう思うだろう。あの時、それがわたしに大きな不安となってのしかかっていました。  わたしはこれまでつーちゃん以外の男性と一緒に暮らしたことはありません。女性のルームメイトと住んだこともありません。振り返ってみれば、大学に入って以来、ずっとひとりでした。わたしにとって自分の部屋は25年間、ひとりだけの世界だったのです。他人の目をまったく気にしなくていい場所でした。  だから実験が始まる前、きっと必要以上に緊張していたのだと思います。初めて一緒に住んだ好きな人にそんな自堕落な姿を見られてしまえば、そのあとの関係が変わってしまうのではないか。愛想を尽かされてしまうのではないか。これまでの楽しかった時間がもう継続されなくなるのではないか。  まるでハタチそこそこの女の子みたいですね。たぶん自分で考えていたよりずっと深く、ずっと大きな緊張感だったのだと思います。笑える話かもしれませんが、わたしにはそれだけつーちゃんとの生活が大切なものだったのだと、微笑ましく感じてやってください。  これが当時のわたしの心境です。  そしてそんな時に、つーちゃんがわたしのことを『姫』と呼びました。  そこで不思議な化学反応が起きたのです。  この人は心の底ではきっと『女の子はちやほやしておけば機嫌を損ねないでいてくれるはず』と信じているのだ、と思ったのです。何を言われても、甘やかしてさえいれば、最終的には自分が優位に立つことができると考えているのだと。そのうち『女の考えることは浅はかだ』とか『所詮、女子どもの考えることだから』なんて言いだすんじゃないだろうかと。  大いなる誤解と、つーちゃんは怒るでしょう。そうです。誤解です。何もかも、あの時のわたしの心理とつーちゃんの言葉のタイミングが作り出したものです。  わたしはつーちゃんにフェミニストになってもらいたいなんて思っていません。決してマウントするなとも言いません。あまり過剰にされるのはイヤですが。  つーちゃんは今のままのつーちゃんでいてくれないと、わたしが困ります。  わたし』
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