110人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
1
「似非フェミニストのマウンティング野郎だから」
言われた西澤は当然だが、言った当人の啓子の表情も『無』になった。ヤバい、しまった、という顔だ。
「え・・、えせ・・」
知らずのうちにオウム返しをしていたら、くるりと背中を向けられた。
状況はこうだ。
土曜日の夜、ベッドでスマホをいじりはじめて10分ほどが経った頃、啓子が寝室にやってきた。おやすみ、と言って横になったのを確認し、スマホを切って隣のベッドにもぐり込んだ。
ルール化しているわけではない。でも土曜日の夜にどちらかのベッドでいちゃいちゃすることは多かった。今日もそのつもりだった。しかも来週から啓子の業務がイレギュラーな体制で忙しくなることがわかっている。だから今夜は特別。そんなつもりでウエストに手をまわしながらささやいた。
「姫様、さて、今夜の姫のご機嫌はいかがかな」
啓子は何も応えず、堅い表情で西澤の顔をじっと見つめた。
不自然な間がしばし開いて、やがて低い声が聞こえた。
「つーちゃん」
「はい・・」
「わたしがつーちゃんと籍を入れるふんぎりがつかない理由が見えた気がする」
「え・・、理由・・」
「そう」
そして「つーちゃんが」に続けてこぼれたフレーズが、あれ。
最初のコメントを投稿しよう!