それ、フツーに恐いから

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それ、フツーに恐いから

 呆れたように博士は俺を見下ろして言う。大きな丸眼鏡の奥にある瞳は寂しそうに見える。 「今この世とあの世の隙間から鬼が涌き出てきている。やつらは何が目的かはわからないところが多いが、1つだけわかっていることがある」  ちらりと鬼と戦っているピンクの様子を見てから、頼んでもいないのに俺に手短に説明をしてくれる。 「鬼たちはどうやら生きたまま人を捕らえて、あの世に連れ込んでいる。それだけだ。僕らは鬼退師たちを集めて、各地に配置し、鬼から人々を助ける仕事としている。但し、大っぴらに公開すれば世間は混乱に陥ることを不安に感じた政府によって、僕らの存在は隠されているけどね」 「俺は関係ないんじゃ......?」  博士の話を聞いて、ますます俺には関係のない話にしか聞こえなかった。 「君がその変身装置との相性が良かったからだ。君たちが生まれた時に採取した血液結果はとある研究所に集められて、将来の鬼退師候補か判断される。そして、15歳から18歳で、運動能力、知能、変身装置との適合性にマッチした人物にその変身装置を渡し、鬼退師となってもらう。まぁ、殆どの鬼退師は祖先も鬼退師だけど、君は違った」  俺は話を聞いても全く理解が出来なかった。博士が話を進めている間に、女子は鬼を倒して、気を失っている女性の世話をしていた。 「ちょうど任務が終わったみたいだね。あとは掃除屋に任せて、僕らは研究所に行こう」 「いや、俺行きませんけど」 「何でだい!? 今の話を聞いたら、嬉しいだろ! 超希少な職、しかも国家公務員相当の仕事だぞ! そりゃ部外秘は多いけど、生活は優遇されているし、鬼退師の力を使えなくなっても天下り制度で仕事はいくらでも用意されている。 これの何が問題なんだい!?」  えらい早口で、捲し立てるように博士は俺に詰め寄って来て言う。 「博士、それ、フツーに怖いから」
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