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それから
*
「……今までどこに行ってたか、知りたがっていたよね」
佇むRの背景に、いつの間にか冬の青空が広がっていた。悪霊はすっかり霧散して、黒い影ひとつ見えなくなっていた。
まるで夢でも見ていたみたいに、何もない空。
「神のところへ、預けていた恩寵を返してもらいに行ってたんだ。堀川が暴走して悪霊を呼び寄せることはもう目に見えていたから、力が必要だと思って。ついでに、Jが規則を破って人間を助けようとしたことも謝っておいたよ。この場を収めたらお咎めなしにしてくれるって言ってた」
「……そりゃどうも」
屋上のコンクリートに横たわったまま、JはRを軽く睨んでいる。
彼の怪我を見れば、さっきまで命を削る戦いがあったことは間違いないのだと信じることができた。
「あんた、元人間だったんだな。俺らとは桁違いに何かが違うと思ってたけど」
それが恩寵か、とJはRの胸で輝いている光を指す。
「そんなにすげえ力だったのか。そりゃあ神にも内緒で手に入れたがるはずだよな」
「恩寵の力を手に入れたがっていたと言うより──俺は俺が持っている恩寵の片割れを探していたんだ。長い間、ずっとね」
Rが私に目を向ける。
私の瞳からは涙がとめどなく溢れている。Rを見ていると懐かしくてたまらない。この感情は私のものではないような気がした。私の胸の奥の恩寵が私の体を使って泣いている。心が彼にたどり着きたがっている。
Rが微笑みながら言う。
「やっと逢えた」
ああ、と息が漏れた。
私はRの魂の片割れだったんだ。
こんなにも懐かしいのは、私も彼にずっと逢いたいと思っていたから。
Rに向かって、私の足が動き出す。やっと、逢えた。その言葉に何度もうなずきながら近づいて、私はとうとうRの胸に抱きついた。
やっと、逢えた。
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