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プロローグ
朝、目が覚めると彼の顔が目の前にあった。
しっかりと閉じられた瞼を縁取るまつげは長く、黒くて艶やかな前髪の下にあっても、その存在感を私に見せつけている。
白くて透明感のある肌に映える薄桃色の唇は私好みの厚さだ。触ったことはないけれどとても柔らかいのだろう。全体的にとても整った顔立ちの人だ。
服はいつもと同じ、黒いスーツ姿のままだった。彼は年がら年中このホストのような真っ黒い服を着ている。おまけに、夏でも真っ黒い皮の手袋をしている。
年齢は20歳前後に見えるけど、実際は分からない。
私は普段、彼に心を許さないようにしている。
興味を持ったり、質問したり、してはいけないと思っている。
完全に無視。何があっても無視。反応したら負け。彼の思う壺になる。
……でもやっぱり、添い寝はないでしょうよ。
「ちょっとーーー! そこで何やってんの!!」
我慢できずに、私は拳を固めると同時に彼の顔面に向かって腕を突き出した。
当たれ! と願ったけれど、残念ながら寸前に彼は「ふわああ」と大あくびをして起き上がる。
「おはよう、小鳩。よく眠ってたね。俺もいつのまにか一緒に寝ちゃったよ。気持ちがいいな、小鳩のベッドは」
ボサッとした髪型でさえアリなのかもと思わせるセクシーな眼差しで彼は微笑む。
「勝手に寝ないで! っていうか乙女の部屋に勝手に入ってこないで! このキモストーカー!!」
「ストーカーとは失礼な」
ムッとした表情を一瞬だけ浮かべると、彼は私にグッと顔を近づける。
「俺は君のそばから離れられないだけだよ、愛しい小鳩。俺と一緒に天国へ行こう」
優しく顎を触られ、背中がゾクッとした。
「行きません!」
「大丈夫、怖くないから。俺、上手だよ? 絶対痛くしないから、さあ」
「嫌だったら嫌! まだ私──」
死にたくない。
はっきりと拒絶を込めて、私は彼の整った顔を睨みつけた。
彼の名は「R」
私の命を取り立てに来ている──死神だ。
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