数百年前

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 男は願いを叶えられ、死神となった。  恩寵を胸に宿した彼の力は絶大で、悪に染まった怨霊と呼ばれる霊魂も彼にひと撫でされるだけで昇天していった。    ある時代、大きな戦が起こり、一度に何万という人が死んだ。理不尽な死に怒り狂う魂もいれば、何が起きたのかも分からずにさまよう魂もあり、それらは時に、生きている人間を攻撃した。  男は救済のために国中を駆け、一晩で八千以上の魂を浄化した。  多くの魂を救済するうちに、男はあることに気がついた。  魂は皆、救いを求めている。  恩寵の光には、彼らを優しく包み込んで浄化する力があるため、それを持った人間を彼らは狙う。  恩寵を持ったが(ゆえ)に悪霊に狙われ続け、不幸な一生を送る者も少なくない。彼らは悪霊に殺されたり、誰かのために自分を犠牲にして亡くなる運命を繰り返したりしていたので、決して長くは生きられなかった。  恩寵を持つ者たちを守らなければ。  男はそう思った。  時代とともに恩寵の数は激減しており、このままでは地上から消え去るかもしれない懸念まで男は抱き始めていた。  菖の生まれ変わりとはまだ逢うことができていなかった。  
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