48人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「恩寵を持つ人間を守らせてください」
男は神に嘆願しに行った。
死の運命にある人間を救うのは神に背く行為であり、死神の資格を失う危険もあった。それでも男は恩寵を守らねばならないと思ったのだ。
「恩寵を持つ人間は悪霊を自らおびき寄せます。私はその悪霊を鎮めましょう。いわば、恩寵は釣り餌のようなもの。泳がせておいて損はありません」
「やはりお前は元人間だな。任務より情を優先するか。堂々と掟を破るというのか」
神は難色を示した。
「それでは、我に逆らわぬ証としてお前の恩寵を差し出せ」
男の魂と結合としていた恩寵を、神は吸い上げた。恩寵の力を失った男は、周りの死神と同等の力しか出せなくなったが、恩寵を探し、守ることを許された。
恩寵を失っても、男は常に誰よりも多くの魂を浄化し、神に貢献した。
菖の生まれ変わりを探すのは一層困難になったが、男は諦めなかった。
そしてある時──列車の横転で多くの命が失われる事故が起きた。
死ぬはずの運命から逃れたひとつの魂が、そこにあった。
最初のコメントを投稿しよう!