それから

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 屋上に冷たい風が吹く。  私の髪や制服のスカートは確実にそのあおりを受けているのに、私はまるで寒くなかった。  重なり合うRと私の胸の間に、恩寵の熱い息吹を感じていたからだ。離れていた魂が一つに戻りたがっているかのような、強い引力が私たちを結びつけていた。 「いつから私が魂の片割れだって気づいたの?」  私は気づけなかった。  一年前、Rが私の前に現れた時、彼は神に恩寵を取り上げられていたからだ。 「確証はなかったけど、もしかしたらってずっと思っていたよ。恩寵を取り戻した時にそれが確信になった」  Rの手が優しく私の頭を撫でる。  この手で彼は、私をずっと守ってくれていたのだ。   私の身の回りで起きていた不幸は全て、私の恩寵を狙っていた悪霊の仕業で──Rは私をずっとずっと守っていてくれたのだ。それなのに、私は勘違いして、彼を嫌いになろうとしていた。馬鹿みたいに。 「私を守っていたこと、どうして言ってくれなかったの?」 「死神の言うことなんて信じられないって言うと思って」  Rは私から体を離し、ほんの少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「君は俺と千年前に出会っていたんだよ、なんて話も信じるわけないだろ?」  それはそうかもしれない。  複雑な気持ちが顔に出ていたのだろうか、Rは私を見下ろして明るく笑った。 「……なんてね。本当は、小鳩にも警戒して欲しかったんだ。自分が常に命を狙われているっていう緊張感を持ってもらわないと、悪霊に隙を与えるから」  結局、すべては私を守るための嫌われ役だったのか。  格好良すぎる。  また泣きそうになった私を、Rは真顔で見つめ返す。 「小鳩はまだこれからも悪霊に狙われ続けると思う。生きている限り、不幸が襲ってくるかもしれない。でも小鳩には俺がついているから。君の最期の瞬間まで、俺は君のそばにいる」  Rの額が私の額にそっと触れた。 「だから負けるな。どんなに辛くても、誰かを救うためなんて綺麗な嘘で逃げないで、精一杯生きていって欲しい。それが出来なかった……菖や君のお母さんの分まで」  私の胸の恩寵が熱くなる。  今まで命を落としてきた千年分の一族の願いが、私の胸にあるのだ。  とても重たい命だ。  彼女たちがいたから、私がいる。  生きよう。  ただ、強く生きようと思った。 「最期は俺が優しく導いてあげる。愛しい小鳩。その時は俺と一緒に──天国へ行こう」  毎日聞いていたセリフを聞いて、私は思わず微笑んだ。  Rとはずいぶんと長く一緒にいられるみたい。  だったら何も怖くない。Rがそばにいる限り、私は不幸じゃない。 「……うん!」  強く抱擁し合う私たちの近くに寝転んでいたJの舌打ちが聞こえた。私とRは顔を見合わせてからJのうんざり顔を見て笑った。  真っ青な空は、そんな私たちを抱いて輝く。  きっと天国よりも、美しく。
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