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春斗は、意を決して魂を乗せた声で
「楠葉……俺は知りたい。知って、お前の事……もっと好きになりたい。だから教えて欲しいんだよ。
きっと知らない自分がいるって怖いよな。でもそんだったら、俺が見てるから。楠葉の知らない楠葉がいるなら、俺がずっと見てるからさ。そして楠葉に教えるよ。
もう、一人で悩むなよ。楠葉が苦しむなら俺も苦しむ。楠葉が悩むなら俺も悩む。
だからさ、信じてくれないか俺の事……」
楠葉は顔を膝の上に伏せたまま、しばらくすすり泣く。
そしてある種の諦めを自分の胸に抱かせながら、重い口を開いた。
「……ずっと……わたし嫌だった……気づいたら知らないとこにいたり。覚えのないことを、誰かにしていたり……怖かったーー」
春斗は、楠葉の痛々しく震える肩を、支えるように撫でながら、話を聴き続ける。
「ーー中学生の時、ノエが死んじゃってから……わたし急にそういうふうになったの。でもすぐに無くなって、もう大丈夫だって思ってた……」
するとまた苦しそうな声を上げた。
「そうか……辛いよな。そんなことあったんだな……」
楠葉の自分の腕を掴む指は、食い込むほど強く力んでいた。そして再び震える声で
「……っだから、もう普通でいられるって。でも……この前またそういうふうになって、気づいた時には病院だったの」
春斗は楠葉をジッと見つめ、全身で言葉を感じながら
「そうだったんだな……」
「それから、また病院で……同じように記憶が無くなることがあって……。
だから……退院してから、精神病院に行こうっていう話になったの……でも文化祭までは、待って欲しいってお願い、した……っ」
「楠葉……」
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