春斗と楠葉

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「だって入院したら、文化祭だって行けなくなっちゃうから……っ。そんなの、やだったの」 「楠葉……もしかして、眠そうにしてたのってのも、やっぱり関係あるのか?」 「うん……寝たら、さ。次にどうなってるか分からないし……怖かったのーー」  楠葉の言い得ぬ恐怖は耳から入り、春斗の胸を執拗に突いていた。  一人で恐怖と戦っていた楠葉を想像した時、春斗は自分に対してのやるせなさを増幅させるほか無かったのだ。  楠葉が、どれだけ苦しかったのかを胸の奥に再現させるも、自らは泣くまいとただただ唇を血が滲むほど噛みしめる。  そして、耳と心を必死で楠葉に傾け続けた。 「ーーわたし、だから学校来てからは、ずっと寝ないでいた。春斗と文化祭見たかったから……どうしても。  あと、もうちょっと頑張ればって、思ってたの……。でも、っでも結局こんな……ことなるんだよ。春斗に、知られるなんてーー」  心を閉じて、今にもどこかへ行ってしまいそうな楠葉の手を、引き戻すようにギュッと握り 「楠葉……。頑張っただろ。楠葉はいっぱい頑張ったじゃんか……。  自分が分からない怖さ、俺に知られた後悔、いろいろあるかもしれないけど、楠葉は精いっぱい頑張ったじゃんかよ。  結局こうやって、また空白の時間が生まれたから、台無しになると思ったのか?  違うよそれは。俺はこうでもなってくれなかったら、楠葉が抱える重い苦しみに、気づくことができなかったかもしれない……。  楠葉の心の一部がさ、俺に楠葉の心を教えてくれたんだよ。だから俺は、意味があることだったって思う」  楠葉は春斗の言葉の温もりに、心を少しばかり温めつつも、自分のすべてを知られてしまったという不安を拭いきれずに、首を横に振る。 「春斗は……優しいからそうやって……いいの、もう無理しないでよ」  と徐に顔を上げ、真っ赤な目と鼻のまま諦めを瞳に滲ませた。  春斗は楠葉の諦めを振り払うように、首を大きく横に振り 「聴いてくれっ、楠葉。俺は諦めないからな。楠葉が何て言おうと、俺は諦めない。  楠葉に信じてもらえるまで、楠葉の知らない楠葉にも信じてもらえるまで……絶対に諦めない。  だって、楠葉のことが……大好きだからーー」
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