りっちゃんは参謀

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 詩が仕事ができることを俺が把握してるってことは、他の医者から見てもそう思うわけで。なにかと他の先生からも頼み事をされている。  その中でも関口先生は特に詩を使おうとする。気に入らねぇ。  ガチャガチャと患者カルテの記入をしていると、ふと視線を感じる。  はたと視線を上げれば詩だった。  困ったような顔をしてこちらを見ている。ドキッと胸が弾むが、今は仕事中。自分にそう言い聞かせて「どうかした?」と尋ねた。 「先生……先生の患者さんじゃないんですけどね……」  そう遠慮がちに言う。主治医が違えば、他の医者に診察させるなんて本来は失礼にあたる。それをわかってるからこそ言いにくそうにしてるんだろう。 「いいよ。どうした?」  救外には待機の医者がいるはずだが、うちの病棟からは出てないはず。ここの患者ならよその医者に任せるより、俺が診た方が適切だ。 「あの、PTGBDが抜けちゃいまして……」 「……は?」  俺は思わず顔をしかめた。中等~重症の胆嚢炎で手術の適応がない場合、胆嚢にうっ帯した胆汁を外に出す必要がある。カテーテルを入れてドレナージする。それがPTGBD(経皮経肝胆囊ドレナージ)だ。そのカテーテルが抜けただと。  挿入するためには、病室ではいそれってわけにはいかない。エコーを使ってアプローチしなきゃなんねぇ。余計に外科医じゃなきゃ無理だ。  他の看護師達は気まずそうにチラチラと詩のことを見てる。  なるほど……詩に押し付けたってわけ。 「なんで抜けた? 引っ張ったのか」  ドレーンは挿入部をナート(縫合)し、上から包交までしてあるし、多少引っ張っても抜けないようゆとりをもって管を体に固定してあるはず。  そう簡単に抜けるもんじゃない。侵襲的な治療だし、何度も挿入するのは患者の負担にもなる。  看護師の不注意で抜けたとなれば、医者が怒るのは当然のこと。 「あの……理由はわかんないんですけど……」 「わかんなくねぇだろ。なんもしてないのに抜けるなんてありえない」 「ちょっとナートも弱かったかもしれません……」  こそっと詩が言う。 「……関口か」 「ええ……」  余計にイラッとする。またアイツ! どうせ簡単に留めていいにしたに違いない。  詩と一緒に患者の元へ向かう。 「なんで抜けた?」  もう一度聞いた。多分、他の看護師がいたから遠慮して言わなかったんだろうと思ったから。 「えっと……管を踏んじゃったらしく……」 「誰」 「増田さん……」  そんで、またアイツ! 「……ぶっ殺すぞ」 「……すみません」 「なんでお前が謝んだよ。本来、抜いたヤツがくるべきだろ」 「それが、泣いちゃってて……」 「泣きてぇのは患者だ。麻酔打つのだって無痛じゃねぇんだぞ」 「おっしゃる通りで……」  詩も事の重大さをわかっているのか、しょぼんと項垂れた。
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