りっちゃんは参謀

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 詩の帰り支度を待って、俺も病院を出た。詩の車は俺のアパートへ置いておき、俺の車で目的地に向かった。  その途中の車内で父さんと話したことを伝えた。 「え!? 今日!? 今日!?」 「そうだって。昼頃会ってきた」 「わー。そうなんだ……。私、昴のお父さんは勝手に怖い人を想像してたんだけど……」 「あー……。俺も、厳しいイメージあったんだけどな。久々に会ったらなんか、拍子抜けだったわ」  先ほどの光景を思い出して思わず笑う。助手席で詩がほっと息を漏らしてるのがわかった。 「県立病院の院長先生だって聞いてたから……こーんな顔した怖い人だとばかり」  そう言って詩は両手で左右の目尻をつり上げた。詩には俺と仲直りした先週、父さんと確執があることを伝えてあった。恐らく場を和ませようと思っての行動だろう。  一生懸命明るく話す詩に、更に笑みが溢れた。  そっと左手を伸ばし、その小さな頭を軽く撫でた。 「昔は市の総合病院なんかにいないで県立に来いって言われたこともあったんだよ。まだ医者になったばかりの頃な」 「うん……」 「多分、自分の近くに置いときたかったんだろうな」 「心配だったんだね」 「そうみたいだな」  俺は子供の頃の記憶障害についてと父さんの心境、それからあの家がまだあることを話した。  詩は驚きながらも時々相槌を打って俺の話を聞いた。 「そっか……。お父さんも寂しかったんだよね」 「今になって思えばな」 「でも和解できたなら、これからは会えるね」  詩は笑顔でそう言う。 「会えるったって……忙しくなくなるわけじゃねぇし、急に毎月会いに行ったりなんかしねぇぞ」 「会いに行ってあげなよ。蟠りが解けて、せっかく会話ができるようになったんだから。昴も私に言ってくれたでしょ。りっちゃんも響もずっと一緒にいて当たり前の存在じゃないって。こんな言い方なんだけど……いつなにがあるかわかんないしさ。私達は特に」  詩は儚げに笑う。ある日突然母親を亡くした詩。子供だったとはいえ、母親に別れを告げる時間を作れた俺よりも喪失感は大きかったかもしれない。  父さんも元気だって笑ってたけど……今まで無理もしてきただろうし詩が言うようになにがあってもおかしくないよな……。 「じゃあ……詩も来てよ。俺1人じゃまだ、なに話していいかわかんねぇし」 「わ、私も一緒に行っていいの!?」 「当たり前だろ。父さんにも紹介するって言ってきた。同棲する前に挨拶に行こうって言ったのは詩じゃん」  俺が守屋家にって話だったけど。でも、俺が挨拶に行くなら、詩だって俺の家族に会う義務があるだろ。父さんにも、保んち両親にも。  詩はきゅっと口を結んで、大きく頷いた。
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