りっちゃんは参謀

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「わ、私……昴のことはお母さんにも会わせたい。昴のお母さんにも……会いたい」 「うん。詩の家に行った時、仏壇に手を合わせてくればよかったってずっと考えてた」  俺がそう言えば、詩は泣きそうな顔をする。 「それは……まだ付き合ったばっかだったから……私も……」 「うん。今度はちゃんと紹介してよ」 「う、うん! じゃ、じゃあさ……来週の土日どっちかにお墓参り行こうよ。両方行ってさ……報告しよ」 「そうだな。保んちもな」 「……武内先生いないよね?」  じとっと目を細める詩。ふと保と和泉の顔が浮かんで、俺も苦笑する。 「言わずにこっそり行こうぜ。いるとうるせぇから」 「きっとまた色々からかわれるもんね」  保のおかげで詩と付き合えた事実はあれど、散々からかわれ冷やかされたことを思い出せばこれ以上あのニヤけ顔を見るのもうんざりだと思った。  2ヶ月後には詩の弟が社会人となる。その前に今のアパートを出てもっと家賃の安いところを探すそうだ。初任給から1人で2LDK分の家賃を払っていくのはキツイだろうし。  引っ越しにはそれなりにまとまった金がかかるが、詩が卒業祝いに出してやるそうだ。本当に弟思いのいい姉だ。  詩の引っ越し費用を俺が出せば、生活も困らないだろう。つっても生活費を出させる気もねぇけど。  ただ思い出すのは初めてデートをした日のこと。食事1つにしても折半だの自分の分は自分で出すだのと言う女だ。俺に世話になるのは嫌がるだろうと容易に想像がつく。  詩が納得するなら、暫くは生活費を受け取ってもいいが、あと数年働いたら夜勤は辞めて外来だけにするとか、クリニックに転職するとか、とにかく家にいる時間を増やして欲しいと思う。  多分仕事を辞めるって選択肢は詩の中にはない。ずっと家にいるのは性に合わないだろうし、完全に俺に頼るのは嫌がるだろうから。  俺がいつ家に帰れるかわからない以上、いつ帰っても詩が家にいるのが理想だが詩の意向も尊重したい。  2ヶ月なんてあっという間だろう。同棲を始めるにあたってそんなことも話し合わなきゃなと思いつつ、そんな会話ができるような間柄になったことを嬉しく思った。  目的地をスマホのナビで探す。なんとなく見覚えのある風景が見え始める。場所は父さんが勤める県立病院のすぐ近くだった。  俺と詩の職場からは車で20分くらいのところ。同じ市内にはいくつものデカイ病院が密集しているから、病院から病院までだってそんなに距離は離れていない。 「あ……そろそろですよ。意外と近くですね」  不意に敬語に戻る詩。気が抜けると慣れた敬語の方が優位になるようだった。そんなところも可愛くて、頬が緩む。  やっぱり詩を連れてきてよかった……。1人で来たら、また不安定になったかもしれない。
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