りっちゃんは参謀

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 記憶を頼りに細い道に入る。 「そこを右です」  言われた通りに曲がれば、懐かしい風景。本当に記憶の片隅にあったものが、すとんと降りてきた気分だった。 「わかったかも……」  俺はハンドルをきって真っ直ぐ進む。あの時と微かに違和感がある。それは多分、周りの風景が変わってるからだ。  近くの家々が姿形を変えている。通学路の目印にしていた青い屋根の家もなくなっている。  子供の頃は、道に迷わないように色んなものを目印にしていた。それが忽然となくなっているのだから違和感を覚えるの当然だ。 「ここか……」 「ここですね。……えぇ!? か、可愛い! フレンチカントリー風ですね」  詩は、ぱあっと表情を明るくさせたが、俺は外観を見た途端にぶわっと全身に鳥肌が立った。変わってない。そうは思うが、子供の頃に見たよりも遥かに小さく見えた。そりゃそうだ、俺がデカくなってんだから。  とはいえ、周りの家と比べてもかなりデカい家であることは確かだ。  詩が言うように、絵本の中に出てくるような可愛い外観ってやつだ。絶対父さんの趣味じゃねぇ。  多分母さんの……好みがいっぱい詰まってるから手放せなかったんだろうな。  30年以上も前に建てたとは思えないほど凝った作りだ。昔はこんな洒落た家も珍しかっただろうに……1から建てたとして、土地合わせて1億くらいすんのかな……。  立地条件と大きさ、デザイン全てを考慮して大体の相場から値段をみる。  35年ローンだとして年に300万……払えんな。  広々とした駐車場に駐車して、外に出る。まだ明るい太陽に照らされて、オレンジとベージュの壁が俺達を出迎えた。 「すごい、すごい! わぁ……可愛い!」  何度も可愛いと言いながらはしゃぐ詩。こんなに喜んでくれるならやっぱり連れてきてよかったと思えた。  門扉をくぐり、石畳を歩く。冬だし草花はない。玄関ポーチは丸みを帯びた作りになっていて、それが余計に可愛らしさを引き立たせていた。  確か、玄関から道路側に目を向けたところに……そう考えながら車の方を振り返る。すると、庭に沿うようにして植えられたクチナシが目に入った。  ……これだ。  じっとそちらを見ている俺の視線に気付いた詩が「あれが、クチナシ……?」と指を差した。  無言で頷くと、たたっと走り出す詩。その場で足がすくんだ俺を置いて、クチナシの前にしゃがみこんだ。 「クチナシって何月に咲くのー?」  大きな声でそう言う。その声にとんっと背中を押されたかのように、一歩足が前に出た。それからととっと続けて数歩。自然に詩の隣に並んで「……夏だよ。梅雨時から暑い頃」と口を開いた。
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