りっちゃんは参謀

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 ほとんどの荷物は保の家に運んだと思っていたのに、懐かしいものが揃っていた。  本当にあの時のまま時が止まっているかのようだった。勉強机の上に置かれた写真立て。若い頃の父さんと母さんと子供の俺。それを手に取ってじっと見つめた。  俺の横からひょこっと顔を出し、「わぁ! 昴だ!」と声を弾ませた。 「うん。あと両親な」 「昴今と変わんないね」 「は!?」 「だって可愛いもん」 「かわ!? 今もってことか?」 「うん」  平然と頷く詩。子供の頃の自分を見て、はぁっと息が漏れる。これと今も変わんねぇのかよ。  母さんの写真を見ることなんてほとんどなかった。だからって顔を忘れたことなんかない。久々に写真を見たらもっと切ない気持ちになるかと思ってた。でも詩がこんなに嬉しそうで明るいから……。なんだか暖かい気持ちでその写真を眺めることができた。 「昴はお母さん似なんだね。そっくりだね」 「今日、父さんにも言われたよ」 「こりゃ言われるよね。お母さん、美人さんだけどどちらかと言うと可愛いね」 「そうか?」 「うん。優しそう」 「そうだな……優しかったな。怒られた記憶とかほとんどねぇし」 「ちっちゃい昴はちゃんとお勉強するいい子だったんでしょ」  なんだ、ちっちゃい昴って。お前だって小せぇじゃねぇか。  むにっとその右頬をつまむ。 「いだっ! いだだ……ふぐふまむ!」  モゴモゴ言う詩が可愛くて、ぶはっと吹き出した。詩とこんなふうに家族写真を見直す日がくるなんて思ってもなかったな。 「どうせお前は勉強もしないで遊んでばっかだったんだろ」 「そ、そんなことないよ! たまにはりっちゃんちでお勉強したもん」 「たまにだろ」 「皆が皆、昴みたいに勉強できるわけじゃないんだよ」 「あー、はいはい」 「時には遊ぶことも大事なんだから!」 「自分の子供にもそうやって言うつもりかよ」 「こど……」  なんの考えもなしに言ったのに、急に黙って真っ赤な顔をする詩。その表情を見て、俺との子供を想像してんのかと思ったらこっちまで恥ずかしくなって、俺は思わず右手で口元を覆った。 「昴は……子供好き?」 「……嫌いじゃない」 「風邪ひいてまで助けたくらいだもんね」  へへっと詩が笑う。熱を出して、詩に介抱してもらった日のことを思い出した。あれからだってまだ2ヶ月は経ってない。  考えてみりゃあの頃には既に惹かれてたんだろうな……。 「それは命がかかってたからだろ。子供も大人も関係なく、危なきゃ助けるだろ」 「お医者さんだもんね」 「おー。でも……お前の子供なら可愛いだろうな」  そう言ってぽんっと詩の頭に左手を乗せた。
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