白い花が香る家

3/69
前へ
/466ページ
次へ
 私が幼い頃には離婚していた母。経済的にも厳しくて、住んでいる場所は古いアパートだった。たまに遊びに行く守屋家は立派なお家。まるで外国にでも行ったかのように凝った外観。  幼いながらにあんな素敵なお家に住めるかなが羨ましかった。一戸建てなんて夢のまた夢。  アパートだって家賃が安い、おんぼろ。思春期だっていうのに自分の部屋はない。それでも家族3人で暮らすには不自由はなかった。  守屋家みたいに立派じゃなくてもいい。あんなに大きくなくても、綺麗じゃなくても、いい。家族団欒過ごせるリビングがあって、寝室は別にあって、本を読んだりできる小さな書斎があったら尚いい。一度くらい、一戸建てに住んでみたい。  そんな夢を描いていたこともあった。 「結婚するならお家を建ててくれるような人にするのよ。お父さんみたいに自由なのはダメ。大事にしてくれる旦那さんみつけて、将来はお母さんも一緒に住まわせてね、マイホーム」  そんな気の早いことを私が高1の時に言っていたお母さん。結局その夢を叶えてあげることはできなかった。  だけど、昴には素敵なお家がある。いつか夢見た一戸建て。絵本の中に出てくるような可愛くてオシャレなお家。  昴が昔住んでいた家は、そんな私の理想のお家そのものだった。  昴と一緒にいられたらどこでもいい。だけど、できたら私もあの家に住んでみたい。 「私……あのお家好きだよ。昴と一緒に住みたい」  ぎゅっと拳を握りしめて言えば、昴は嬉しそうに笑った。 「わかった。リフォームしようぜ。とても冬に住めるような家じゃねぇもん」 「エアコンあったじゃん」 「あの規模だぞ? 暖まんねぇよ。俺達、寒くて早々に帰って来たじゃん」 「まあ……うん」 「だから床暖房とかつけて、水回りもしっかりしてもらおうぜ。古い家だから湯沸し器もついてねぇし、浴室乾燥だってない」 「そうだけど……でも、住めるよ」 「住めるか、住めないかじゃないだろ。あの家の家事やるの主にお前なんだから、なるべく楽な方がいいじゃん」  そんな優しい言葉をくれた昴。  昴の頭の中には何年も何十年も先の未来が見えているようだった。  子供がたくさんできたら洗濯機で乾燥させられる量じゃないし、頻度だって多くなる。食器を洗うのだって、手をかざしてセンサー反応で水が出るようになれば楽だし。  トイレは便座が温かくならないとこの冬は越せない。  そんなことを言った。一々、それもそうだねと頷く私。30年前にはあの家はどこの家よりも最先端だったはずだ。  それなのに、現代の私達にとって不便だと思えるところがたくさんあるのだから、私達はとても贅沢な暮らしをしているのだろう。  時代は変わる。その時代を生きる私達は、同じようにお家も現代の形に変えてもいいのかもしれない。
/466ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12393人が本棚に入れています
本棚に追加