白い花が香る家

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「でも、いいの? 手直ししちゃって。業者さんも入るんだよ?」 「もう既にハウスクリーニングは入ってるし。それに……綺麗に整えて快適に暮らした方が母さんも喜ぶ気がするし……」  昴は気恥ずかしそうに、人差し指の先で頬を掻いた。 「そっか、そうだね」 「うん」 「でも、リフォームっていくらかかるかな? あの大きさじゃ結構かかるよね……」 「だから、金の心配はしなくていいっていつも言ってんだろ? 土台はタダなんだから、リフォームしたってたかがしれてるだろ」 「そんなことないよ! 何千万もかかるでしょ!?」 「かかってもいいよ。俺、いくら稼いでると思ってんの? それなりに貯金もあるし」 「ひぃっ」  何千万にも動じない昴に、身構える私。こ、コイツめ……根っからのお坊っちゃまだ。武内先生んちだってお父さんは医者だって言ってたし、場所が変わったところで贅沢に変わりはないんだ。 「いいから。俺がお前と住むためならいくら出してもいいって言ってんだよ」  さらっとそんなことを言われた。生涯に一度だってそんなことを言われる日が来るなんて思ってもみなかった。 「……私も頑張って働きます」 「じゃあお前、食費係な」 「食費係!」  任命されました! おそらく私の倍くらい稼いでる昴には到底及ばないから、ちょっとでも役割をもらえただけ嬉しい。  私もお金はないけど、家事ダメダメな昴のために食事と掃除くらいは頑張ろう。そう意気込むことができた。  ようやく完成を待って1ヶ月前に住み始めたのだ。壁を塗り替えたり、老朽化が激しいところはほとんど変えた。もちろん昴のお父さんの許可も得た。同棲の挨拶も兼ねて、一度時間を作ってくれたのだ。 「昴が住んでくれるなら、好きにするといい。手放すわけじゃないんだ。新しく生まれ変わると思えばまた前進できる気がするよ」  そう言ってくれた。実際に会った昴のお父さんは、とても優しい人だった。顔は昴とは似てない気がする。でも、患者さんのために自己犠牲をする姿なんかはそっくりだ。 「あなたのような人に出会えてよかった。昴のことを好きになってくれてありがとう。これからもどうかよろしくお願いします」  そう頭を下げられてしまった。県立病院の院長先生に。 「こちらこそありがとうございます。お父様とお母様のおかげで昴さんと出会えることができたので、感謝でいっぱいです。公私共にお世話になって、私も楽しいことばかりです」 「本当にできた娘さんで、昴にはもったいないくらいだな」  お父さんがそう笑うと、昴は「な!?」と腰を上げて顔を真っ赤にさせた。確執があったとは思えないほど、良好な親子関係に見えた。
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