白い花が香る家

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 先週にはお父さんを招いて食事会をした。日曜日なら昴もお父さんもオペはないし、急変さえなければ食事の間くらい抜けても大丈夫だと言ってくれたから。  お父さんも若い頃は自分が率先してオペに入っていたようだが、院長となり優秀な医師が他にも入ってきたため、仕事量も大幅に減ったようだ。もちろん院長の仕事が新たにふえているわけだが。 「これは美味い。料理も上手なんて尚更昴にはもったいないな」  お父さんは、私が作った料理の数々に手をつけてはその都度褒めてくれた。他人に料理を振る舞うなんてあまりない。昴の時だって緊張したのにお父さんともなれば余計にだ。ただ、お父さんも昴と同じように食事をせずに無理をすることがあるようで、とても美味しそうに食べてくれた。  新しく生まれ変わった部屋を一緒に見て回り、ほとんど見た目を変えずに残しておいたお母さんの部屋で馴れ初めを聞いた。  初めての出会いで突き飛ばされた私とは違って、昴のお母さんはお父さんから一目惚れされていたそうだ。  そりゃあれだけ可愛きゃ一目惚れもされるよね。ちらっと昴を見てそう思ったものだ。  庭のクチナシを見て「おそらく早くて来週、まあ再来週までには咲くだろう。毎年咲いてるからね。心配しなくても咲くよ」とお父さんは笑ってくれた。  そうして今日、クチナシの花が咲いているのを発見したのだ。お父さんの予言通りあれから1週間後のことだ。 「お父さんの言った通り、咲いたね」 「そうだな」  暫く抱き締め合って、もう一度花に目を向けた。 「お父さんにも見せたいね」 「毎年この時期に来てるんだろ? だったらまた来るだろ」 「じゃあまた一緒にご飯食べられるかな」 「詩がそうしたいなら」  昴はそう言うけれど、顔はとても嬉しそうだった。久しぶりにお父さんと同じ食事を囲んで更に昔の楽しかった記憶を思い出したようだった。  お父さんは医師だから、他の職業と同じように定年ですぱっと退職することはない。これだけの名医を病院側もそう簡単には手放さないだろう。  それでも今と同じように毎日過酷な勤務がなされることはない。5年後、10年後にはもっと時間ができているはず。その時もし私達に子供がいたら、いつか一緒に暮らせるといいな。 「あ、そう言えばおばさんがまた昴と一緒にご飯食べにおいでって言ってたよ」 「あー……」  私の言葉に微妙な顔をする。守屋家に昴と一緒に挨拶に行った日のことを思い出し、思わず笑ってしまう。
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