白い花が香る家

6/69
前へ
/466ページ
次へ
 響には私の車で先に行ってもらい、私は昴にお迎えに来てもらって一緒に向かった。響は実の弟だし、守屋家もほとんど家族のようなものだとあって昴の顔からは緊張が伝わってきた。  りっちゃんからは歓迎されていたと聞いたところで、2人きりで話した時の情景が忘れられないそうだ。 「今度は俺、守屋律がトラウマになりそう」  そんなふうに言うものだから、私もりっちゃんに反対された時のことを思い出した。あれがお芝居だったとはいえ、りっちゃんの迫力ったら凄かったもんなぁ……。 「わかるよ。私でも怯んだもん」 「子供の頃から一緒にいて溺愛されてたお前が怯むくらいの人間だぞ?」  そうは言いながらもちゃんと挨拶に行ってくれたんだ。  この日は土曜日に集まった。こんなふうに土日はどこかしらに挨拶に行ったりしていたから、結局昴は病院にいるのと同じくらい休む暇はなかった。 「いらっしゃい! あなたが昴くんね! 詩も早く上がって」  出迎えたおばさんを一目見て、昴は目をまん丸くさせていた。そりゃこんな美人なモデル体型が母として現れたら驚くだろう。私もこの人は魔女なんじゃないかと思うくらい年をとらない。  守屋家の皆は私の誕生日と同じように勢揃いしてくれた。私はとても嬉しいのだけれど、4人以上の家族に慣れていない昴は人数だけでも圧倒されているようだった。  仕事中はいつも冷静な昴が、おじさんやりっちゃんを前にして箸を止めた。挨拶といってもそんな形式に凝ったものじゃなく、おばさんがいつも夕食に呼んでくれるような簡単なものだ。 「スーツを着こんで料亭で挨拶を、なんて結婚でもあるまいし食事会でいいんじゃない? きっと彼も俺に会うだけでも嫌だろうし」  りっちゃんがそんなふうに笑って言ったから、皆でワイワイ食卓を囲む形になった。  昴はガチガチに緊張して顔をひきつらせていたし、あっくんを見てはお互いに気まずそうにしていた。それも食事会が中盤に差し掛かる頃には、お決まりのりっちゃんとあっくんのコントのようなやり取りを見て柔らかい表情を浮かべるようになっていた。  優しいおばあちゃんと明るいおばさんに話を振られて、会話は弾んだ。昴だって患者さんとはしっかりコミュニケーションが取れるわけだし、人が苦手なわけではないはず。  もう誰も私達のことを反対する人はいない、そう実感してようやく昴も安堵したようだった。  響は最初医者なんてやめとけって言ったくせに、付き合ってしまったら本当に反対する気はないのか医療のあれこれについて積極的に昴に話しかけていた。
/466ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12391人が本棚に入れています
本棚に追加