白い花が香る家

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 そんな響だが、実は1ヶ月前にうちの病棟に入院したのだ。無事に国試は合格し、元々就職が決まっていた市立病院に勤め始めていた。武内先生の奥さんが働いている病院だ。  もうそろそろ引っ越しを、と考えているタイミングだった。まだ一緒に住んでいたことが幸いだった。仕事から帰ってきた響は、夕食前に腹部を押さえて踞った。 「痛い、痛い、痛い!」  とんでもなく痛がるもんだから何事かと思った。 「どこが痛いの?」 「腹! いってぇ!」  右下腹部が痛いと叫ぶ。ああ、アッペ(虫垂炎)か。冷静にそう思った私。 「病院行こうか」 「俺んとこは無理!」  まあ、そうだよね。オペになったら自分の職場のスタッフに全裸を見られるわけだし。私も自分の病院でオペはやだな。武内先生にオペされるとか地獄絵図だよ。まあ、昴がさせないと思うけど。 「じゃあ、ちょっと待って」  仕事中だとわかってはいたけど昴に電話をかけた。 「どうした?」  意外と直ぐにでた電話。平日だから忙しいかと思ってた。オペ日だし。 「お疲れ様です。仕事中にごめんなさい。響がね、お腹痛がっててアッペっぽいんだけど」 「けっこう痛がってる? 救急車いる?」 「うーん、動けると思う。可能なら急外連れてっていいかなぁ」 「いいよ。ベッド空いてるか師長に確認してみる。オペになるようなら俺入るわ」  そう言ってくれて安堵する。こういう時、病院勤務でよかったって思う。今日は確か関口先生もオペに入ってるから、できたら響のオペに入ってほしくないんだよなぁ。術後ちゃんと診てくれないし。  そう思いながら受診させればやっぱりアッペだった。緊オペするほどじゃないから、今日は点滴で炎症抑えて週明けにオペをという運びとなった。  その間、うちの病棟に入院し誰がプライマリーになるかでざわざわしていた。黒木師長に変わっていてよかったと心底思った。柴田師長のままだったら響まで嫌な扱いを受けたかもしれない。  遠回しに害のない遥さんにプライマリーをお願いし、承諾を得た。他の看護師達は予想通り、響のプライマリーにつきたがらなかった。  だというのに、響の姿を見た途端担当でもないのに色んな看護師が挨拶に行ったらしい。 「青野さんと山本さんって人がきたよ。姉ちゃん仲良いんだってね。ここの看護師さん、優しくていい人ばっかりだね」  耳を疑った。はい? 仲良し? 四天王の内の2人だぞ。優しくていい人ばっかり? そんなわけがなかろうに。 「河野さん、響くんって彼女いるの? 薬剤師さんなんだってね」  2トーン高い声で山本さんがそう言った時、ぞわっと鳥肌が立った。こ、この女……響を狙ってんのか!? 私に散々してきた仕打ちを忘れたのか!?  中学時代、「弟くんイケメンだよねぇ」そう何人にも言われたことを思い出した。実の弟だから私にはわからないが、世間的にはイケメンの部類に入るらしい。  現金な女達にちやほやされながら、本人は悪くない入院生活を送った。
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