白い花が香る家

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「あ、昴ちゃん。もう1本ワイン持ってきて」 「は? まだこれあるだろ?」 「それあげる。違うの持ってきて。どれでもいいから」 「飲み過ぎだって」 「いーから! 持ってきて!」 「……わかったよ。明日二日酔いで動けなくなっても知らねぇからな」  声を大きくする理沙子さんに、昴は渋々席を立った。泥酔しているようにも見える理沙子さん。大丈夫かな、と心配になってじっと見つめてると、昴の姿が見えなくなった途端、すっと表情を整えた。  はっとして瞼を上げた瞬間「詩ちゃん、昴ちゃんのこと頼むね」と言われた。 「え? あ、はい」 「麻里惠ちゃんは凄く優しくていい母親だったと思う。あんなにちっちゃい時にお母さんを亡くして、寂しい思いもしたでしょうし。私は保と同じように昴ちゃんを育てたつもりだったけど、やっぱり本当の母親にはなれないからさ」  少し寂しそうにそう言った。 「……そんなことないと思いますよ。昴さん、前はずっと院内にいて家にも帰ってなかったんです。でも、お正月だけはどんなに忙しくてもここに帰るって言ってました。今回はたけ……保さんが奥さんと来るって聞いて遠慮したみたいですけど、本当は会いたかったと思います。  県内の大学を選んだのも、毎週保さんと一緒に帰ってこれるようにっていうのが理由だって聞きました。昴さんにとっては、俊輔さんも理沙子さんも本当の家族なんだと思いますよ」 「ありがとう。そう言ってくれて……」 「私も母を亡くしてるんです。高校生の時に。父はとっくにいなかったので、路頭に迷った私達に子供の頃からお世話になっていた家族が、とてもよくしてくれて大学に行くこともできました。私にとっては、その人達も大事な家族です。だから先週、その家族に昴さんを紹介しました」 「そうだったの……詩ちゃんも大変だったね」 「はい……。でも母が亡くなって辛い時、支えてくれる存在があることがとても救いでした。だからきっと昴さんも同じ気持ちだと思います」  自然と笑みが溢れた。私もこの人達を大切にしたい。そう思えたから。  あの時、理沙子さんは目を潤ませて何度も頷いてくれた。ワインボトルを持って戻ってきた昴をぎゅっと抱きしめて、頬にキスまでしていた。  照れながらもどこか嬉しそうな昴。私もこんな素敵な家庭を築きたいと思った。  守屋家からも武内家からもまた招待されるなんて、嬉しい限りだ。皆が私達のことを認めてくれ、幸せを願ってくれている証拠だから。 「じゃあ、来月行こうよ。また土曜日にでも」 「おー。保にバレないようにな」 「いてもいいじゃん」 「嫁が嫌なんだよ」  仲良しのはずなのになぜか武内先生の奥さんを嫌がる昴。そんなに嫌がられたら、私も会いたくなるってもんだ。 「今度、和泉さんもちゃんと紹介してね」  私は、昴の腕を組んでそう言った。
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