白い花が香る家

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 7月下旬、私は1人で守屋家を訪れることになった。土曜日だけれど、術後の予後が思わしくない人がいて、呼吸器管理をしている患者がいるからと昴は院内に留まることになったから。  初めて昴とクチナシの花を確認してから早1ヶ月。あれから面白いくらいぽんぽんと花が咲き、門扉をくぐるだけでふわっと匂いが香るほどだった。  昴は体調を崩すこともなく、クチナシの花を受け入れられていた。一緒にしゃがんで眺めては、昴の幼少期の話を聞かせてもらった。  守屋家に招待されていたが、中々土日休みがなかった私。平日の夜に昴を連れていくことも可能だけれど、何時に終わると断言できない以上、皆を待たせるのもしのびないと結局1ヶ月後になってしまった。  それなのに昴は行けないとのことで、これ以上待たせるのもなんだから私だけでも行くことにした。  今日は特別な日。念願のまどかさんに会えるんだ。あっくんがまどかさんと結婚したのは2年半くらい前だったか。  まどかさんを独占しているあっくんが会わせてくれない。それはまあ、冗談で。結婚が決まったばかりの頃、紹介してくれる話がでたのだ。  ただ、結婚とほぼ同時に妊娠が発覚したまどかさん。安定期に入るまでは悪阻もひどくてとても押しかけられるような状態じゃなかった。  安定期に入ってから結婚式を挙げ、そこにはお呼ばれし出席もした。遠くからまどかさんを見て、軽く挨拶をした程度だった。  もっとちゃんと話をしてみたかったのだけれど、他の来賓もいてまた後日食事会でもとなったのだ。  そんなことを言っている内に子供が生まれ、私も仕事が忙しくて食事会どころではなかった。  去年の誕生日も子供が泣き止まないからと言ってまどかさんは来なかったし、あっくんとは時々会えてもまどかさんとは会えずにいた。  それがこの度ようやく会うことができる。かなもいるみたいで、りっちゃんのお友達夫妻も来るそうだ。  りっちゃんはこのところ忙しいようだった。先月も今月も友達の結婚式で休みが潰れるって嘆いていた。だけどどこか嬉しそうだったから、大切な友達なんだと思う。  りっちゃんの友達を紹介してもらうのは初めてのこと。少しだけ緊張するけれど、嬉しくもあるんだ。  今月の楽しみができたと心逸る中、私は約束の時間通り、響と一緒にお宅訪問をした。  かなに会うのは、昴と一緒に挨拶に行った時以来。かなは相変わらずの無愛想だった。 「あの子が古河先生の彼女だよ」  こそっと昴に耳打ちをした。 「すげぇ美人だけど、気強そうだな」  さらっとそう言うところが昴らしい。事実だからこちらも否定はできない。 「そうなの。だからあのかなを手なずけられるのは古河先生くらいだと思う」 「あー、なるほどな」  昴は納得したように大きく頷いた。
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