白い花が香る家

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「今も同じ職場ってこと?」 「そうです! 明日も一緒に勤務なんですよ」 「いいなぁ、職場恋愛! 憧れるー!」  旦那さんがすぐ近くにいるのに、声を大にして叶衣さんは言う。じとっと視線を感じてリビングの方を見れば、璃空さんがとんでもない形相でこちらを見ていた。  こわっ! 叶衣さん、滅多なことを言うもんじゃありません! 「私の仲良しの上司もね、職場結婚で今でもラブラブ夫婦なの。皆にバレないようにコッソリ付き合うなんて、刺激的~」  うっとりする叶衣さんは璃空さんの視線に気付いていない。あの人、本当に叶衣さんのこと好きなんだなぁ……。 「うちはもう皆にバレて、院内にも広まっちゃってるんですよ」 「職場ってなんであんなに噂広がるの早いんだろうね」  人気絶頂期の頃から職場での噂に悩まされてきたまどかさんが、憐れみの目でこちらを見る。どこの職場でも噂好きはいるようで、おちおち恋愛もしちゃいられないと知った。  そんなところに電話が鳴る。スマホがブーっと震え、画面を見れば昴からだった。 「あ、ちょっと彼からなんで出てもいいですか?」 「いいよ、いいよ! 素敵なスーパードクターだね!」  叶衣さんは調子よく煽る。私は思わず笑いながら電話に出た。 「もしもし、お疲れ様です」 「お疲れー。まだそっちにいんの?」 「いますよ。ガールズトークに花を咲かせてたところです」 「なんだ、それ。そんなにいんのかよ」 「いっぱい集まってますよ。先生、仕事は?」  お疲れ様です、から入ってしまったものだからつい職場にいる調子で喋ってしまう。 「患者亡くなってさ、今死亡確認終わった」 「そうだったんですか……」  状態悪かったからな。 「最後、家族ついてたから看取ることもできたし、納得してたよ」 「それならよかったです」 「うん。そんで、手ぇ空いたからなんならそっち行くけど」 「え!? 本当!?」 「うん。知らないヤツらもいて心細いんじゃねぇの?」 「ま、まあ……」  めちゃくちゃ楽しんでるけど。来なくていいよ、とも言えない。璃空さんも来てるから、できたら叶衣さんとまどかさんにも昴を紹介したいし。 「律さんの妹もいんの?」 「いるよ」 「んじゃ、朋樹捕まえたから連れてくわ」 「え!? 本当!?」 「僕は誘われなかったって落ち込んでるから。じゃあ、後でな」  そう言って切られた電話。スマホを持ったままかなに視線を移す。 「古河先生誘ってあげなかったの?」 「え!? なに!?」 「落ち込んでるから連れてくねって」 「はあ!? 連れてこなくていいし!」 「またまた、会いたいでしょ。あんまり会えないんだから」  うふふ。と笑えばきっと睨み付けられる。好き好きオーラが出ちゃうのが恥ずかしいわけね、可愛いヤツめ。 「詩ちゃんとかなちゃんの彼も来るの!?」  私達以上に嬉しそうな顔をする叶衣さんに、「お茶の準備しなきゃね」と張り切るまどかさん。 「それより詩ちゃん、なんで敬語? 家でもお医者さんごっこしてるの?」  叶衣さんの衝撃的な発言に私は思わず吹き出した。
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