白い花が香る家

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「いいえ、これは……診察です」  きりっとした目でそう言った和泉さん。りっちゃんと璃空さんはぐっと目頭を押さえた。多分、苦手なんだろうなぁと思っていると「診察ですか! 和泉さんもお医者さんごっこですか?」と声を弾ませる叶衣さん。 「お医者さんごっこ? 私達、本物のお医者さんなんです」  にっこり笑う和泉さん。待って、叶衣さん。お医者さんごっこって……。 「そうなんですか!? 夫婦でお医者さんなんて凄い! 詩ちゃんちはお医者さんと看護師さんで毎日お家でお医者さんごっこしてるって」 「かかかかかかか叶衣さぁーん!」  私は慌てて叶衣さんの口封じに向かう。けれど、時既に遅し。 「お医者さんごっこ……」 「うちで?」 「してねぇよ!」  コントのようにスムーズなやり取りは続く。 「叶衣さぁーん」  武内先生の前はダメなんだってば。1000年先までからかわれるんだから。 「あれ、ダメだった?」 「ダメです! してないですし! 職場が一緒なんで仕事の時の癖が出ただけです!」 「なんだ、なんだ。お医者さんごっこ、楽しそうでいいなって思って」 「是非、叶衣さんのご家庭でどうぞ」  私の言葉を聞いて璃空さんに視線を移す叶衣さん。 「そういった趣味はございません」  バッサリ打ち切られてしまいました。  なんだか騒がしくなってきた。武内夫妻はかなを見ては「かなんせ!」と騒いでいるし、4人増えただけで大盛り上がり。 「ねぇねぇ、あの夫婦本当にお医者さん? モデルさんみたいだね、2人とも」  こそっと耳元で叶衣さんに言われ、私は大きく頷いた。 「そうなんです。院内でも大人気ですよ」 「あれじゃモテて大変だね」 「叶衣さんも」 「うちは大丈夫。璃空、女嫌いだから」  なぬ!? ってことはやっぱり……男ならいけるのか。 「かなちゃんの彼氏さんも綺麗な顔してるし、詩ちゃんの勤めてる病院って美形揃いなの?」 「いやいや、そんなことは……」  ん? 綺麗な顔? 古河先生が?  今日は先生もお休みだからか、髪も下におろしている。いつもは武内先生みたいなセンター分けだったはず。度のキツそうな四角い黒ぶち眼鏡はいつもと同じだ。  あのほわんとした雰囲気から、ペットのような可愛さらしさは伺えるが、綺麗かな……。  そう思いながらじっと古河先生の顔を見つめた。うーん……せめて眼鏡を外してくれればいいんだけど。  と思っているところにてててっと走ってきた妃茉莉ちゃん。さっきまでおばさんがみててくれていたのだけれど、ママが恋しくなったようで、まどかさんにくっついている。
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