白い花が香る家

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「凄く明るくていい子でね。沐浴も授乳も上手くいかなくて嫌になっちゃうお母さん多いみたいなんだけど、私はおかげで楽しく入院できたよ」  どこか嬉しそうな叶衣さん。そう言ってくれると本当にありがたい。ただでさえ出産後で体力の消耗は激しく、痛みも持続している中、実習生がつくなんて負担だろうに。  赤ちゃんも抱っこさせてもらうし、お母さん以上に関わることも多かったりする。いくら助産師さんが一緒についてくれているからといって学生が新生児を受け持つのをよく思わない人がいるのも事実だ。 「私も思い出しますよ。実習けっこう大変だったんですけど、私も褥婦さんが凄くいい人で楽しかったです」 「詩ちゃんは産科には行かなかったんだね」 「そうですね。産科だと看護師って立場弱いんです。助産師さんがたくさんいるところだと負けちゃいますね。だからといって助産師をとってまで産科に行く気はなかったし、新人で産科に行くと、成人は看られないですからね。  ずっと産科でやってくならいいと思いますけど、色んな可能性を見据えてガツガツ仕事が出来るようになるならやっぱり外科ですかね」 「ちゃんと考えて希望出してるんだね」 「そうですね。でもやっぱり仕事抜きにしても赤ちゃんは可愛いなって思いますよ」 「可愛いよね。私も自分が親になるなんて考えもしなかったけど、今この子が産まれてきて幸せだもん」  本当に幸せそうな叶衣さん。こんな笑顔を見せられたら、私も自分がお母さんになること考えちゃうな。  帰りの車内では、昴と璃叶くんの話で持ちきりだった。 「可愛かったね! 私、あんなちっちゃい赤ちゃん見たの久しぶりだよ!」 「皆そうだろ。俺だって中々ねぇよ」  そうは言うけれど、昴の顔もどこか穏やかだった。 「ああやって赤ちゃん見ると、自分のところにもきてほしいなって思っちゃうよ」 「……もう子供欲しいの?」 「ぜ、全然すぐにってわけじゃないよ! 今は昴と2人で暮らせて楽しいし。もうちょっと2人でいる生活を満喫したいし」 「俺も。子供も可愛いけど、一旦生まれたら20年は覚悟しなきゃなんねぇしな」 「今から20年って私45だ! 子供が生まれるって年をとるってことなのね!」  私が声を上げれば昴は隣でクスクス笑う。ハンドルをゆっくりきりながら、見慣れた道に出た。
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