白い花が香る家

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「その過程を楽しむのがいいんじゃねぇの? 年とっても、その年齢なりの楽しみ方があるはずだって俺は思ってるけど?」 「すごい! 昴前向き!」  いつもポジティブに昴の背中を押してたのは私の方だったのに。 「だってその年になっても詩が隣にいるんだろ?」  そっとこちらに顔を向けられて、その大きな瞳に見つめられた。  その年になってもって……子供が産まれて20年経ってもってことだよね。この先もずっと一緒ってことだよね! 「そ、それはプロポーズですか!?」 「いや、違う」  違うんかーい! 今回はそういう流れだったじゃんか!  またがくぅっと項垂れる私。 「まだ子供もいらないんだろ? そんなに焦る必要もないだろ」  昴はおかしそうに笑うけど、璃空さんと叶衣さんを見ていたら、羨ましく思っちゃったんだもん。  それでも、私との未来を考えてくれてるだけマシか。そう思えば、いつかくるその時が楽しみでもあった。  そんな楽しい日々を迎えたばかりだというのに、なぜかお呼びだしを食らった私。昼休憩から戻った私に「河野さん、仕事が終わったら話があるからまた声をかけてくれるかしら」と言われたのだ。  半日生きた心地がしないまま仕事を終え、私は黒木師長と向かい合って座っている。 「急に呼び出して悪かったわね」 「いえ……」 「仕事はどう?」 「えっと……以前より働きやすくなって、覚えることもたくさんありましたけどとても勉強になってます」 「そう。それはよかったわ。せっかく慣れてきて、やりがいも見つけられたようでそんなところ悪いんだけど、河野さんに異動の話が出てるのよ」 「え……?」  私は、ぽかんと口を開けたまま思考停止した。再始動までは暫し時間を要した。  私はてっきり仕事でなにかをやらかしたんじゃないかだとか、他の看護師がまたあることないこと言ったんじゃないかと思っていたから。 「ほら、あなた岩崎先生と一緒に住んでるでしょう?」  ああ、そうか……。そりゃそうだよね。どこの職場だって付き合ってたり結婚している者同士を一緒に働かせたりしない。プライベートなことで仕事に支障がでると困るから。 「岩崎先生も河野さんも仕事に対して真面目で、公私混同しないよう努めてるのはよくわかるわ。でもなにかあってからじゃ困るから」 「……そうですね」 「本当は一緒に暮らし始めた頃から異動の話はあったんだけど、河野さん自身まだ異動したばかりだったでしょ? 先月で1年経ったから、そろそろどうかと思ってるのよ」  昴と違う病棟で働く。家に帰ればそりゃ少しは会えるけど、今よりももっと会う時間が減るということ。  私はズキズキと痛む胸をきゅっと押さえた。
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