白い花が香る家

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「異動は……どこになるんでしょうか?」  オペがある病棟なら、ちらっとオペ室で会うこともできるかもしれない。 「せっかく消化器を学び始めたんだから、消化器内科か外科がやりたいなら脳外なんかどうかしら。心外もいいけど」  えぇ!? 脳外に心外!? いやいやいや……無理、無理。そんなところにいったらとても定時になんて終われないよ。ここよりもよっぽど重症度高いし。  やっぱり外科にいかせないようにしてるのかな……。 「脳外や心外はちょっと……」 「あら、私は河野さんならできると思ってるわよ? 私も長いこと心外にいたけど、あそこで学べることもたくさんあると思うし」 「異動先は選べるんですか?」 「異動したばかりの病棟もあるから、一概にどこでもってわけにはいかないけど、河野さんがここ! って学びたい場所があるならできるだけ希望を叶えられるようにするけど」  そっか……。この人も怖いけど、悪い人じゃないんだよな……。仕事さえちゃんとやってれば平等に評価してくれる人だし。 「わかりました……。ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」 「ええ。今月いっぱいを考えてるから、なるべく早めにお願いね」  真顔でそう言われ、私の面談は終わった。  そっか、異動か……。外科なら脳外か心外……それか昴に会うことのない内科にいけってことね。  あー……寂しいな。正直、仕事に支障は出ないまでも職場で昴の顔を見れるのが楽しみで、モチベーションが上がっていた部分もあるんだよね。  それがもう会えないとなると……。どこの病棟でも同じか。  私はとぼとぼとあからさまに落ち込んで家に帰り、食事を作りながら昴の帰宅を待った。  明日も日勤だし、あんまり遅くなるようなら寝なきゃいけないけどな……。そう思いながらお風呂を済ませた。  23時を過ぎても帰ってこないので、私は1人で食事をする。  今まではこうやって1人で食事するのも平気だったけど、仕事に行っても会えない、家に帰ってきても1人なんて……。一緒に住んでるっていったって、普通のカップルとは違うのに。  どんどん気持ちは落ち込む。寝不足で仕事に影響を及ぼすわけにもいかないので、そろそろっとベッドに入る。  帰ってくるのは夜中かもしれない。昴が帰ってこないってことは緊オペや急変の可能性があるということ。明日出勤したら重症者が増えてるなんてことはあり得る。それなら余計にちゃんと寝ておかないとなんないな……。  そう思っているうちに、うとうとっと眠気が襲う。普段の激務に加えて、師長と面談がある、そう思いながら半日過ごしたんだ。気を張っていたんだろう。  昴の帰りを待ちたい気持ち半分、そのまま眠ってしまいたい気持ちが半分。  けれど、そうは言っていられず、すぅっと吸い込まれるかのように眠りに落ちた。
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