白い花が香る家

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「あのね、昴。私、昴と勉強するの楽しかったよ」 「ん? ああ、うん」 「コゲしか知らなかったけど、消化器のアレコレも知って、見たことないオペ後もたくさん見れて、急変もいっぱい対応させてもらって、先生達からも患者さんからもいっぱい学んだよ」 「うん……」  昴は私の手をぎゅっと握った。不安そうな顔をしている。口ではプロポーズ断ってもいいよなんて言っておきながら、きっと私がなんて返事するか怖いんだ。 「私が看護師になったのは、お母さんが亡くなった時、なんで亡くなったのか本当の原因が知りたくて、同じように事故で怪我した人や家族を支えたくて目指したの」 「うん」 「でも私が結局選んだのは整形じゃなくてコゲだった。病気の人と向き合って色んな勉強して、だった4年半だけど看護師として成長できたなって思えるの」 「そっか」 「お母さんね、私に幸せになってねって言ったの。お母さんのために看護師になったようなものだけど、1番はお母さんの望みを叶えたいって思ってて……私、看護師として仕事するよりも、昴と過ごすなんでもない日の方が幸せだって思う」 「え……?」 「看護師として昴のこと支えられないなら、家庭でいっぱい支えたいって思う」 「それって……」 「昴、私と結婚して下さい」  震える手をぎゅっと握り返した。すうっと昴の目が見開いたかと思うと「ちょ……それ、俺が言うやつ……」と小さな声で呟いた。  好きだっていう告白も、結婚して下さいも結局私からになっちゃった。肝心なことをいつも言葉にしないのは昴の方だ。 「結婚、するの? しないの?」 「……する」 「転職は夜勤のないところにする。それかうちの外来?」 「それでもいいけど……でも、外来は外来で大変だと思うぞ。色んな医者の補助に入るし」  大変、と言いながら嫌そうなのはこれまた嫉妬だろう。 「ひっきりなしに患者さんいるから、病棟ほど話す暇もないと思うけど」 「それも……そうか」  自分の外来担当時を思い出すかのように不意に視線を外した昴は、小さく何度か頷いた。 「あ! 昴の外来につくこともあるかな?」 「俺、月木しか外来ねぇのにピンポイントで消化器外科にはあたんねぇだろ。月に数回だ」 「そっか……」 「お前が俺がいないところで俺のこと言われても気にしないなら外来でもいいけど、それで出勤するのが辛くなるならクリニック行けばいいよ」 「……うん」  最後はちゃんと私の意見を聞いてくれる。やっぱり私は昴が好き。手を握ったまま、軽くキスをする。本日2回目のキス。1回目は、朝いってらっしゃいをしたその時に。  目を伏せた昴が、私の背中に腕を回し、本日3回目のキスをした。深く、優しく、暖かいキス。 「明日、師長に昴と結婚するって言うよ?」 「いいよ。また……守屋家に挨拶しにいかなきゃだな……」  昴はむうっと顔をしかめて、指先でこめかみを軽く掻くのだった。
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