白い花が香る家

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 確かにプリセプター制度は教える側も成長できて、自分自身の知識と技術の振り返りにもなる。4年目の宿命でもあって、私はここへの異動によって途中で他の人に託してきた。  だからといって全くプリセプターとしての役目を担っていなかったかと聞かれればそういうわけでもない。  一応夜勤ができるまでには教えたし、後は自分で応用しながら学んでいくしかないと思っている。最後まで見届けてあげられなかったことは残念だが、悔いはない。  だって、教えることを楽しいと思ったこともないし、仕事だからやっただけだし。教育に向いてるとも思わないし、やりがいを得たわけでもない。  プリセプターなんてやりたがる人間はいない。新人のために一緒に残業して、研修に出席して、レポートやら課題の原稿に目を通したりしなきゃいけないし。  自分の仕事だけやってる方がそりゃ楽さ。  そんな誰もやりたがらない仕事を最後にやってから辞めろと言いたいんだ。  引き留められることは覚悟してたけど、正直プリセプターをやらされるとは思ってもなかったな……。 「でも師長。プリセプターをやるなら前の病棟かここじゃないと無理ですよ」 「そうね。でもコゲはもう新しい人が入って人数足りてるし……。ねぇ河野さん、相談なんだけど、ここでもう1年プリセプターやって来年度いっぱいで辞めるっていうのはどうかしら?」 「それって……プリセプターやるならもう1年半ここにいられるってことですか?」 「そう思ってくれていいわ」 「1年半ですか……」  しかもプリセプターか。頭の中は完全に結婚とクリニックでいっぱいだったから、こんなことになるとは考えてなかった。 「ちょっとそのことも含めてもう一度考えてもらえないかしら? 岩崎先生もすぐに河野さんが職場からいなくなっちゃうのは寂しいんじゃないかしら」  退職って言葉を出したら手のひら返しがすごいな。先生も寂しいって、来月にでもすぐ異動させようとしてたくせに。  でもまあ……もう1年昴と一緒に働けるなら……どうかな。昴次第か。 「わかりました。もう一度話し合ってみます」  そんな面談で幕を閉じ、結局方針は定まらないまま。
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