白い花が香る家

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 それを昴に話せば、ははっとおかしそうに笑っていた。 「すげぇ、師長も必死だな」 「ちょっと、笑い事じゃないんだけど」 「わりぃ。詩をうちから出すためにどっかの病棟の看護師とトレードの予定だっただろうから、完全に予定が狂って焦ってるんだろうな」 「私だってもう辞める気満々だったよ。今年度いっぱいは難しいだろうなって考えてはいたけど、まさかプリセプターまでやらされるなんて思ってもないし」 「んー、詩がしたいようにすれば? 俺はまだ詩が病棟に留まるなら歓迎だし。でもその教育することが負担になるなら、病棟に拘らずにどこにでも飛ばす代わりに1年以内に辞めさせろって言えば?」 「昴はいいの? まだ夜勤続くことになっても」 「そりゃ家にいてくれた方がいいけど、今回の話は病棟から離れるからっていって出た話だろ? それがなければ子供できるまでは一緒に働くのも悪くないって思ってたからな」  再度昴の意向を確認できたところで、私は退職までの間、また1から他の病棟で仕事を覚えることより、昴の近くで今ある知識を後輩に教えていく道を選んだ。  いいように丸め込まれた感は否めないけれど、まだもう少し昴と一緒に働けるなら、残りの1年半は大事に過ごそうと思えた。  その日の内に他の師長との話し合いが設けられたようで、私が病棟に留まりプリセプターを請け負うことを大いに喜ばれた。  おそらく絶対に1年以内に辞めさせるなという上からのお達しがあったに違いない。  組織というのは実にめんどくさいものだ。  新人さんがいい子ならいいけど……私のように覚えの悪いポンコツだと、最悪患者さんは受け持ちさせられないわ、夜勤はやらせられないわ、ってことになりかねない。  どうか普通の新人さんが私のもとにきてくれますように。私は半年後の4月を想像しては、切に願うのだった。
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