白い花が香る家

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「岩崎くんには酷いことを言って、悪かったね。俺からも詩のことを頼むよ」  最後はそんな言葉で微笑まれ、感極まるものがあった。  この人、実はいい人なのか……? って。  それでも2回目はもういいかな。そう思うほどにそわそわするのは、あの大人数に慣れないから。  あんなに大勢で食事をすることなんて今までなかったし、どこに視線をやっていいのかわからない。  誰かが話している時には口を挟むつもりもないし、急に話を振られれば驚くくらいに緊張するし。  オペをする時以上に緊迫したような心境になるから、体に悪い。 「その内慣れるよ。同棲始めたら今後の付き合いも多くなるんだから」  詩は笑いながらそう言った。  付き合い、多くなんのか……? 今までずっと1人だったから他人の家族と関わることなんてなかった。  保んちだって、集まっても両親と和泉くらいだ。  詩は「私だって初めて会う人は緊張するよー。昴のお父さんに会った時だって心臓バクバクだったよ」なんて言ったが、俺にはその緊張感は伝わらない。  人見知りなんてないんじゃないか。そう思えるほど、俺よりも父さんと笑顔で話してたし。  でも他人と関わるなら、こうやって身の回りの環境も変化していくんだな。そう思い始めたところの守屋家2回目訪問。  この日は詩も知らない律さんの友達が遊びにくるっていうから、1人で行かせたことがずっと引っかかっていた。  何人くるのか、男女でくるのか詳細は聞かされないまま。  仕事中も、他のヤツらと仲良くやれてるのか、孤立してないかとそわそわする。周や律さんがいるし、そもそも守屋家で開催されるホームパーティーなんだから孤立するはずなんてない。そうは思いつつも、寂しい思いをしてるんじゃないかと集中できずにいた。  患者が亡くなったことで時間ができた俺。俺の仕事が終わるのを詩が待ってるかもしれない。そう思ったら、俺もすぐに詩に会いたかった。  カルテ記載だけして、着替えをしようとロッカーを目指す。外来前を通りかかると、なぜか心療内科の電気がついていた。  土曜日だし外来は休みのはず。なんでだ、そう思ってこっそり覗くと朋樹がいた。 「お前、なんでいんだよ」 「あれ? お疲れ様。今通院してる患者さんで使いたい資料があってさ、まとめてたんだ。家だと午後は父親もいて集中できなくてね」  朋樹はそう言って苦笑した。  あー、たしかコイツ実家暮らしだったな。父親は小児科の開業医だったっけ。家にいるったって部屋はいくつもあるだろうし、そう顔を合わせるわけでもないだろうに。  まあ、父親と顔を合わせづらいのはどこの家庭も一緒なのかもな。 「ふーん。お前、今日行かなかったんだな」 「え? どこに?」 「どこって、守屋の家」 「え?」 「今日、ホームパーティーやってるだろ? お前の彼女もいるんだろ?」  朋樹は俺の言葉に目を丸くさせ、次の瞬間ぶわっと泣きそうな顔をした。
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