白い花が香る家

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「なんだよ、その顔」 「僕、そんなの聞いてないよ。奏ちゃん、誘ってくれなかったもん」  くぅーん、という鳴き声が聞こえてきそうなほど目を潤ませて、垂れ下がった頭の上の耳が見えるようだ。  コイツの方がよっぽど犬っぽいじゃねぇか。 「泣くなよ」 「泣いてない」 「行くか? 一緒に」 「い、いいの!?」 「いいだろ、別に」 「でも僕誘われてない……」 「じゃあ行かないんだな」 「そ、それは……」  しょんぼりと顔を伏せる朋樹。  あー! ったく! だからなんつー顔してんだよ!  コイツ、本当に俺の診察してたヤツか? あんなに穏やかに他人の話を聞く男が、たかだか女にパーティー誘われてないだけで絶望的な顔してんじゃねぇよ。 「詩に聞いてみるから」 「ほ、本当……?」 「ああ」  それからすぐにその場で電話をかけた。詩は嬉しそうに声を弾ませ、朋樹も連れていくと言えば待ってると普通に受け入れられた。 「ほら、別になんとも言ってなかったぞ。大勢集まる場でひやかされるのが嫌だっただけなんじゃねぇの?」  妹は、周より律さんに似てるって聞いたからな。周のタイプなら、自分の交際相手を自慢して歩きたがるだろうが、律さんタイプなら結婚のタイミングでもない限り家族に合わせたりしねぇか。 「ひ、ひやかすったって、僕は守屋のお家には何度も行ってるんだよ? 律さんとだってよく一緒にゲームをやるし、周とは定期的に遊んでるし」 「は? お前、俺よりあの家に出入りしてんじゃねぇか」 「僕は奏ちゃんと付き合う前から周と友達だったんだよ。小学校の時に仲が良くて」  そういや、そんなことを詩が言ってたか? 「じゃあなんで今回誰からも誘われてねぇんだ」 「知らないよぉ」  また泣きそうな顔をする。 「わかったから、泣くなよ。連れてくから」  なんで今度は俺が慰めてやらなきゃなんねぇんだ。精神科医なら自分の感情コントロールくらい自分でしろよ。  そう思いながらも本日非番の男にそうも言えなかった。  着替えを済ませ、朋樹と一緒に駐車場へ向かった。 「すーばーるー」  遠くから俺を呼ぶ声がした。しかもよーく知ってる声。 「やべっ! おい、朋樹! 早く乗れ!」 「えっ!? え!?」 「いいから!」  朋樹を助手席に詰め込んで、俺も慌てて運転席に乗り込む。エンジンをかけ、Dに入れた途端、バタンっと音がして車体が揺れた。 「ねぇ、どこ行くの?」  後部座席から声がして、俺はゆっくり振り返った。
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