白い花が香る家

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「あぁ! 昴、今まどかさん見たでしょ!? 俺のまどかさん!」  さすがは嫁に敏感な周。すぐに俺の視線の先に気付き、くわっと目を見開く。  まて、俺にまで闘志を向けんな。 「見るだろ、そりゃ。大変だなって」 「えぇ!? 大変ってなに!?」 「大変は大変だろ。お前のいき過ぎた束縛に毎日堪え忍んでるんだなって思ったら不憫でな」 「な、なんてことを! まどかさんはね、そんなことで俺のことを嫌いになったりなんかしないんだよ! 俺達は深く、深く愛し合ってるんだから!」  よくもまあ、そんな恥ずかしいセリフを大声で叫べるな。ああ、そうですか。はいはい。  場がしらけたところで、周はぐっと下唇を噛む。自分で言っておきながら不安になったのか、ばっとその場で立ち上がり、「まどかさん、まどかさん!」って名前を呼びながら相手の元に駆けていった。  その姿を目で追ったが、バカらしくてやめた。いくら詩のことが好きでも、さすがにああはなりたくないと思う。  そんな男を弟に持つ律さん。余裕の表情で優雅にコーヒーを飲む。  その律さんに自然と他の男達の視線が集まる。 「いつものことだから。一々動じてたら身が持たないよ。犬が吠えてると思ってやり過ごすのがコツ」  律さんは、誰もなにも言っていないにも関わらずそう言った。なるほどな……兄弟っていたらいたで面倒だな。  周に保を見て、苦笑するしかなかった。 「璃空ー」  璃空さんの嫁が名前を呼んでいる。周に嫁を取られて、女性陣も輪を乱されたようだ。呼ばれた璃空さんは静かに立ち上がって、声の主へと寄っていく。  その内に保と朋樹までもが律さんの妹と和泉に呼ばれ、俺のことは呼ばないのかよ。と一向に呼びにこない詩の横顔を眺めた。  暫くするとまた騒々しくなる。  長い黒髪の女がやってきた。溌剌として明るいが、詩の明るさとはまた違う。なんていうか……狂気に満ちてる時の周のよう。  その予想は的中し、周の嫁に向かってかなり興奮した様子で目を爛々とさせている。  なんだ、ありゃ……。信者か? そう思ったところに律さんが隣に並ぶ姿を捕らえた。  いや、嘘だろ。律さんに限って……。  俺は真相を確かめたくなって、その近くにいる詩に話しかけた。 「あの人、律さんの彼女?」 「そう。すんごい美人でしょ?」  美人ならいいってもんじゃない。それなら和泉も許容範囲になっちまうじゃねぇか。あんな強烈な女と付き合ってるなんて……って、なんか……周の嫁に雰囲気似てねぇか?  兄弟揃って似たような女がタイプなのか……いや、でも性格は周っぽいよな。  ああ……なるほど。なんだかんだ言って、律さんも周みたいなタイプがほっとけないわけか。  なんとなーく、あの女を選んだ律さんが理解できた気がした。俺は絶対にごめんだけど。
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