白い花が香る家

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 翌日には師長が必死に退職を止め、来年度いっぱいまで今の病棟で働いてから退職となった。  おかげで来月から詩がいないなんていうことは免れたわけだ。  だけど、本当にこれでよかったのか。詩に全部言わせて、仕事も結婚も話し合いというよりも全部詩に決断させて。  嬉しそうに働く詩を横目に入籍日も決めなきゃだし、結婚式をどうするかも考えなきゃなんねぇなとその先のイベントについても頭を悩ませた。 「なぁ、お前婚約指輪ってやつ渡したの?」  詩が師長との面談を済ませてから1週間が経った頃、丁度医局にいた保にそう尋ねた。 「え、なに。結婚することにしたの?」 「まだしねぇけど、そういう方向に」 「ようやく決心したわけ! よかったよかった。絶対昴は一生独身だと思ってたから俺は嬉しいよ」  保は歯を出してキラッキラの笑顔をこちらに向ける。ああ、今回はからかうつもりはないわけ? コイツの線引きよくわかんねぇな。 「詩に異動の話が出たんだよ」 「は? え? 詩ちゃん病棟変わるの?」 「いや、それなら結婚するかってことに」 「なるほどなるほど! それはいい決断!」  喋ってる途中で割って入るなよ。 「だからってすぐにじゃねぇぞ。とりあえず来年度いっぱいまでは詩もここに残るし」 「それなら良かった。俺も詩ちゃんいなくなると困るんだよね。仕事が滞って」 「他の看護師に頼めよ」 「他の看護師さん、ちょっとうるさいからね」  そうなんだよな……仕事ができない看護師ばかりじゃない。なんなら経験も知識も豊富な看護師が揃ってるはずだ。それなのに、きゃあきゃあ言いながら仕事に集中しないから、ただうるさいだけの使えない看護師枠に入れられている。ああいうのを宝の持ち腐れっていうんだな。 「そんで、どうなんだよ。指輪渡したのか」 「渡したよ」 「いつ」 「5年前」 「5年!? お前、結婚したの去年だろ」 「うん。でもプロポーズしたのは5年前かな。まだ研修医だったし。だから言ったじゃん、専門医になったら結婚しようとしてたけど、向こうの親に反対されたって」 「あー……そうだったな」 「詩ちゃんには悪いけど、親がいると中々面倒だよ。頭の固い頑固ジジイでね」 「和泉の父親なのにか?」  頑固ジジイからどうやってあんな奔放な人間が生まれてくんだよ。完全に育て方間違えただろ。
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