白い花が香る家

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「ありがとうございます」 「うん。入籍いつ?」 「とりあえず、年内には……」 「そう。まあ、頑張って」  そう言って一方的に切られた電話。  ちょっ……もっと他にあるだろ? アンタが異常なくらい大事にしてきた詩が結婚すんだぞ!? なんでこんなに興味なさそうなんだよ! 俺に詩のことを託すとは言われたけれども! こうも干渉しなくなるもんなのか!?  あの人もまともに見えて結構変わってるからな……。  俺は切られた電話がホーム画面に戻ったスマホをじとっと目を細めて見つめた。  まあ、いいや……協力はしてくれたわけだし。なんだかんだ言って、色々世話してくれたりはするんだよな。  俺は情報を頼りに、次の日曜日に指輪を買いに出掛けた。ブランドは人気なのをいくつか保に教えてもらった。相場は大体給料1ヶ月分くらいらしい。  日勤で働いてる詩を院内に残し、俺は指輪探しに没頭した。 「とりあえず、わかんないことは全部店員さんに相談しなよ」  そう保に言われたから、あれこれ違いについて聞いたが正直違いなんかわかんねぇ。ダイヤがデカけりゃ高いのかと思えばそういうわけでもねぇし。多分あんまり仰々しいのは好きじゃないだろうから、なるべくシンプルなのをと思えば値段は安いしで中々決まらなかった。  結局3店舗回ってようやく購入した指輪。93万6千円。高いのか安いのかもよくわかんねぇけど、まあいいか。  これでとりあえず準備はできたし、あとは詩に渡してちゃんとプロポーズするだけ。  ちゃんと……な。……ばかやろー、ビビるな、俺。もう結婚することは決定なんだ。断られることはないってわかってんだから怖いもんなんかねぇだろ。  そうは思っても足は自宅にも病院にも向かない。  ちょ……まだ無理。院内で会ってもどんな顔していいかわかんねぇし、家に帰ったところでやることねぇし。詩が家に帰ったタイミングでとりあえず病院に戻って仕事して、20時頃に帰るか……。  そうと決まったら、俺は別のところに向かう。スマホを取り出して電話をかけた。 「おばさん? 今近くにいんだけど寄ってってもいい?」 「どうしたの、急に。昴ちゃんならいつでも大歓迎だけど」  驚いたようだけど、どこか嬉しそうだ。多分この人にとっても俺は本当の息子みたいなもんだろうから。  俺もふっと笑って、保の実家に急いだ。  日曜日はおばさんも仕事が休みで家にいる。昔は銀行員としてバリバリ働いてたみたいだけど、保が産まれてからはそのまま退職し、俺達が高校を卒業するまで専業主婦だった。  子育てが終わったらやることがなくて暇なのか、暇潰し程度にパートをしている。金には困ってないだろうから、まあ小遣い稼ぎだろう。
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