白い花が香る家

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 リビングで向かい合って座る。遠くでキャンキャン犬が吠える中、両手で頬杖をついてにこにこのおばさん。 「なんだよ、いいことでもあったの?」 「あったじゃん。こうやって昴ちゃん来てくれたから」 「なに、そんなこと。別にくるし」 「来ないじゃん。いっつも保と一緒」 「おばさんだって保に会いたいだろ?」  出された緑茶に口をつけた。 「そりゃね。でも、保と同じくらい昴ちゃんも大事なの。こうやって1人で時々きてくれたら嬉しいよ」 「そ。ずっと忙しかったからな。おじさんも保も医者だから、毎日1人だと心細いだろ」 「なぁに、そんなこと言っちゃって」 「んー……詩もそうかなって」 「ああ、詩ちゃんなら大丈夫よ。しっかりしてるもん。わかってて昴ちゃんのこと選んでくれたんでしょ」 「うん。なぁ、おばさん。俺今年結婚することにしたよ」  ちょっと照れ臭い。父さんにもまだ言ってないのに先におばさんに報告しにくるなんて……でも、ずっと側にいてくれたのはこの人だから。 「あらそう! じゃあ、今日はその報告?」 「うん」 「なら詩ちゃんも一緒に来たらよかったのに」 「ちゃんとしたプロポーズまだなんだよ。これからしようと思ってさ……」 「なになに、そんな大事な時にわざわざきてくれたの!?」 「来るだろ。俺も……おばさんのこと、本当の母さんみたいに思ってるから」  気恥ずかしいが、ふっと眉を下げて笑えば、じわぁっと泣きそうな顔をするおばさん。あんなにおっかなかったのに、やっぱり年取ると涙腺弱くなんだな。 「泣くなよ」 「な、泣くわよ! 高校生の時だって引き留めても出てっちゃって、大学行ったら週1しか帰ってこないし、就職したら全然顔見せなかったくせにそんなことばっかり言うんだから」 「うん……ごめんな。おばさんにも寂しい思いさせた」  この人だって考えてみりゃいつでも1人だった。保以外に子供ができないからって俺を引き取ったようなもんなのに、そんな俺すらも保と一緒に出てったんだから。 「男の子なんてそんなもんかって思ってたからいいのよ。それに、和泉ちゃんも詩ちゃんもいるならお正月はまた騒がしくなるでしょ?」  目尻の涙を拭いながらおばさんは笑う。俺はぐっと顔をしかめて「和泉はうるせぇから日をずらしてくるわ」と言った。 「あっはっは! 保が2人いるみたいで嫌なんでしょ」 「わかるだろ!? 似てるよな!?」 「似てる、似てる! ひょうきんな子だなぁって思うけど、保らしい子を選んだわ」  おばさんはテーブルを叩いて大笑いしている。  笑い事じゃねぇっつーの。俺がどれだけ振り回されてると思ってんだ。 「詩も母親いないしさ、母さんできるみたいで喜んでると思う」 「そう……よかった。昴ちゃんにはあれくらい気持ちが強くて暖かい子じゃないとね」 「なんだよそれ」 「甘えん坊だから」 「まっ、ちょっ、誰がだよ!」  ガタッと音を立てて立ち上がれば、おばさんは更におかしそうにゲラゲラ笑う。
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